エピローグ―3
3話目になります。
3話目は上里美子の視点になります。
そんなことを上里愛以外の兄や姉が考えていること等、上里美子にしてみれば想像もしないことだった。
何故なら、九条幸家には事実上の婚約者がいるからだ。
とはいえ、それは内密のことであり、それこそ上里美子にしても、偶々知ってしまっただけで、公言するつもりはなかった。
というか、下手に公になってしまっては、却って混乱の種になる。
そして、その相手が誰かというと。
「幸家様」
「完子も元気そうで何よりだ」
「ありがとうございます」
徳川完子は九条幸家に挨拶をして、それとなく横に寄り添った。
そう完子と幸家は、事実上の婚約関係にある。
とはいえ、完子が未だに9歳であることから、5年後に完子が14歳になり次第、公式に発表されることになっている。
そもそもの発端は、6歳の完子が織田家に預けられて、周囲に挨拶回りをした際のことだった。
そして、九条家に挨拶に赴いた際に完子が幸家に好意を抱き、幸家も満更でもない態度を示した。
それを見た織田美子が暗躍(?)して、九条家と徳川家に話をして、二人がこのまま仲良くし続けるならば、完子が14歳になり次第、二人を結婚させることにしたのだ。
織田美子にしてみれば、北米共和国と日本の友好関係を高めるのに、徳川家康の孫と九条家の次期当主との結婚は何よりのことだった。
更に完子は母方を介して、ローマ帝国との縁もあるので日系三国の橋渡し役になる。
摂家の正妻はそれなりの家格が無いと難しいが、ローマ帝国皇太子の実の従妹で、北米共和国の前大統領の孫に完子はなるし、遠いとはいえど正一位を与えられた織田信長元首相の大姪にもなるのだ。
だから、全く問題無い筈だ。
更に言えば、今でこそ完子は北米共和国人だが、祖父母の代までさかのぼれば、全員が元は日本人ではないか、と織田美子は周囲を説得して回り、今上陛下からも問題ないとの言葉を賜ったのだ。
(念のために書くと、完子の祖父母は、徳川家康と西郷氏、浅井長政とお市の4人です)
こうしたことから、完子と幸家は事実上婚約することになった。
上里美子は、完子が幸家からの贈り物を持っていたことから、そのことを察したのだが、敢えて誰にも言わずにいる。
(とはいえ、美子とて念のために密かに完子に確認してはいる)
そして、この場にいる面々は全員がそれを知っており、だからこそ幸家と完子は公然と寄り添っているのだった。
それを見た上里美子は、改めて考えた。
私は誰と結婚するのだろう。
いや、そもそも結婚に私は余り魅力を感じない。
何しろ実母自身が結婚していないのだから。
もし、自分の思い通りに生きられるのなら、生涯、結婚せずに自分の好きな生物に関する仕事をしたい。
北米共和国で逢った望月千代子さんのように、動物保護の仕事をずっとしたい。
そんなことを上里美子は考える一方、義理の伯母の言葉が内心で引っ掛かっていた。
義理の伯母の織田美子は冗談だ、と言ったが、北米共和国のように他の日系植民地内でも独立したいという動きが本格的にあるのかもしれない。
そして、日本本国内からも植民地を手放すべきだ、との声が挙がるようになっている。
だから、義理の伯母の言葉は全くの冗談では無いのかも。
それにこの場には、それこそ二条昭実首相までいるし、九条兼孝にしても内大臣の経歴がある。
織田美子にしても、夫の織田信長に見劣りしない辣腕の宮中政治家と自分は聞いている。
そういった面々が、本当に日系植民地の独立に密かに同意しているならば。
上里美子は周囲を見回して考えた。
私は大人になった時、どうしているだろう。
そして、世界はどうなっているのだろう。
素晴らしい世界になっていて、自分や周囲が幸せになっていれば良いのだけど。
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