第67章―15
そして、徳川完子と久我通前は1週間余りを掛けて、何とか(二人の間では最後になる)北欧及び東欧地域に取り掛かった。
「北欧はデンマークとスウェーデンにほぼ分かれていて、ノルウェーはデンマークに、フィンランドはスウェーデンに帰属しているのね」
「元をただせば、デンマークとスウェーデンはデンマークという一つの国だったけど、スウェーデンが独立してしまって、今の状態になっている」
「そして、共にキリスト教徒が多いけど、東方正教でもカトリックでもないルター派のプロテスタントが両国の住民の多数を占めていて、又、ドイツやイングランドと同系統のゲルマン系の言語を話す民族が、フィンランドを除いて圧倒的多数派を占めているのね」
二人はそうやって北欧地域をまとめた。
上里美子は、それをほぼ黙って見守った。
特に二人のまとめに異論は無かったからだ。
「それから東欧となると、ポーランド=リトアニア共和国」
「モスクワ大公国もあるけど、ローマ帝国によって滅ぼされる見込みだから省略しましょう。それに戦乱の真っ最中だから、それこそ何とかまとめても、今とは違うということになりそうだし」
通前の言葉に、少しでも早くまとめて終わらせたい完子はそう返した。
美子も完子の言葉に無言で肯き、方針は固まった。
「ところで、国王がいるのに何でポーランド=リトアニア共和国と呼ばれるの」
「1572年に国王ジグムント2世が崩御されたけど、ジグムント2世には嫡出子も嫡出の弟もいなかった。そして、その頃からポーランド=リトアニアという国は、シュラフタと呼ばれる貴族が極めて強い力を持っていた。そういったことから、ジグムント2世が崩御した後のポーランド=リトアニア国王は、シュラフタの選挙で決めることになった。そして、その国王が崩御等して王位を失った後の国王も血縁ではなく、シュラフタの選挙で決めることになった。こうしたことから、ポーランド=リトアニア共和国という呼称が内外から広まって、それが定着したようだよ」
「そうなんだ」
「有権者の数が全然違うけど、北米共和国と似ているとも言えるね」
「確かにそうね」
完子と通前は、そんなやり取りをした。
「今のポーランド=リトアニア共和国の国王はジグムント3世で、ジグムント2世の遠縁になるらしい。その一方で、一時はスウェーデン国王を兼ねていたけど、ジグムント3世は熱心なカトリック信徒であることから、スウェーデン国内ではジグムント3世への反感が強まり、ジグムント3世の父方叔父のカールが、カール9世として国王に即位した。そうしたことから、スウェーデン王国とポーランド=リトアニア共和国は戦争状態にあるらしい」
「先年、ローマ帝国との戦争でポーランド=リトアニア共和国は、ウクライナを失陥したけど、それよりもジグムント3世にとってはスウェーデンの方が重要なのでしょうね」
「実際、ローマ帝国とはあっさり講和条約の締結に至ったからね」
二人はそれで、世界各国のまとめを終えることにした。
美子もそれに同意して、ここに二人の夏休みの自由研究は何とか終わった。
そして、夏休みが終わった後、完子と通前は夏休みの共同自由研究として、これを担任の先生に提出したのだが。
担任の先生には、二人の学力から美子が協力したのをすぐに見破られてしまい、正直に三人の共同研究にしなさい、と二人は注意されて。
結果的にだが、美子は二つの自由研究(もう一つは言うまでもなく、リョコウバト等の研究)を提出したことになった。
更に夏休みの自由研究の最終的な学年評価として、両方共に最上位に近い高評価を受けて、社会も理科も得意な才女だ、と美子は面目を施すことになった。
これで、第67章を終えて、次話から第11部のエピローグになります。
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