第67章―7
さて、明と琉球をまとめた翌日、3人はフィリピンやインドネシア諸島についてのまとめを頑張ることになっていた。
「この辺りの地域は、小さな国や国とは言い難い勢力が分立という状況にあるのね」
「流石にこれだけ広い領域、しかも海が大部分を占めるとなると当然だな」
「更に言えば、主要な拠点、マニラやシンガポール、ブルネイやモルッカ諸島等は、日本の植民地にもなっているのね」
「それこそ香辛料や原油等が入手できるし、それに色々な面で日本にしてみれば世界とつながる拠点を確保して、交易活動を行わないといけないから当然だけど」
徳川完子と久我通前はそんなやり取りをしながら、この辺りについてのまとめを作っていった。
上里美子は、二人の調査からまとめについて、敢えて口を挟まなかった。
それなりに二人が上手くまとめをつくっているのもあったが、それ以上に自分としては気になることがあり、それを下手に口にしては、二人に却って重荷になるという考えが浮かんだからだ。
それは何かというと、宗教面に関する問題だった。
というか、徳川完子と久我通前はそういった視点を欠落させて、まとめを作っていたのだ。
(これはある意味では当然の話で、一般の日本の小学生が宗教問題にまで関心を持つ筈が無かった)
それに対して、上里美子はこれまでの成育歴、オスマン帝国で生まれ育ち、更には実母である義姉の上里愛がイスラム教スンニ派の信徒であったが、今は棄教している身であるという事情から、宗教面にどうしても関心を持って調べてしまったのだ。
そうした観点から見る限り、フィリピンからインドネシアの地域は、極めて興味深い地域だった。
それこそ世界中各地で古来からある民族習俗からくる素朴といってよい多神教的な宗教心がそれなりに生き延びている状況に、この地域はあった。
その一方で、南アジア、インド洋方面から押し寄せた宗教、大乗仏教からヒンドゥー教、更にはイスラム教スンニ派の洗礼を浴び続けていて、多くの住民が世俗利益もあるのだろうが、時に応じて改宗をそれなりに行ってきたという現実があった。
そうしたことから、この地域ではイスラム教スンニ派が(この世界では)多数派になっていた。
美子は、こういった現実を自分なりに調査していく中で、オスマン帝国がスルタン=カリフ制を採用した事情について、更には日本がそれを後押しした理由について、義姉の愛が、私の勘繰り過ぎかもしれないけど、と断った上で自分に語った内容を思い出さざるを得なかった。
「日本は東南アジア、具体的に言うとフィリピンやインドネシアのイスラム教スンニ派信徒との関係に気を遣わざるを得ないの。何故なら交易を潤滑に行う等の必要があるから。だから、オスマン帝国と日本は友好関係を締結したの」
「そうなの」
「実際、イスラム教スンニ派信徒が支配層を占める国の小国分立状態にこの地域はある。そういった国が揉め事を起こしたら、日本は仲裁せざるを得ないけど、日本は異教徒だから素直に聞いてくれるとは限らない。でも、そこでオスマン帝国のカリフが日本を支持したら、どうかしら」
「対立している国は、カリフの権威から共に日本の意見に従うということなの」
「そういうこと」
実際、この際に改めて美子がこの地域について調べる限り、義姉のいうことは正しい気がしてならなかった。
この地域はそれなりに安定している。
だが、その背景として日本の力とオスマン帝国のカリフという宗教権威が手を組んで、小国同士の対立をそれなりで抑えているからだというのが、美子の目には見えていた。
美子は想った。
宗教の力が、こんなところにまで出てくるとは。
宗教の力は本当に怖ろしい代物ね。
上里美子が見えすぎ、と言われそうですが。
何しろ実母の上里愛のこと等から、宗教問題に美子は関心を持たざるを得なかったのです。
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