第67章―4
そんな感じでモンゴルを取りあえずは済ませた後、徳川完子と久我通前の自由研究は、明へと入っていくことになった。
とはいえ、明は余りにも調べることが多いし、既にかなりの時間が経っている。
上里美子を加えた3人は、今日は書籍探しだけをして、翌日に書籍を読むことにした。
そして、午前半日掛けて3人は書籍を読み込んだのだが、美子以外の2人はそれだけで疲労困憊したような有様を呈した。
何しろ明に関する書籍は何だかんだ言っても隣の大国だし、様々な歴史的な交流もあって、そういったことに触れた書籍もある。
いわゆる書籍の重みに二人は押し潰されてしまったのだ。
そして、3人は昼食を食べた後、気を取り直して明に関するまとめを始めた。
「今の皇帝は万暦帝で良いのよね」
「それで間違いない」
「そして、明の現状はというと、どう見ても滅ぶ寸前といわれても仕方ない惨状ね」
「その通りだな」
完子と通前の話を、取りあえずは美子は黙って聞くことにした。
昨日の経験から、自分が下手に口を出せば、更に二人に圧力を掛けることになると考えたからだ。
「それにしても酷い皇帝のようね。明は日本と違って専制君主制の国家だから、良い皇帝が即位すればすぐに良くなるけど、酷い皇帝が即位したら途端にダメになってしまうのね」
「そういったことからすれば、日本は国会の信任を得た内閣が天皇陛下を輔弼する体制だから、そういった欠点を免れているな」
「明だと政治に関する民の声は皇帝まで届かないどころか、そういった声を挙げると皇帝を非難したとして民は処刑される危険さえあるけど、日本は憲法で国民の権利を保障していて、政治に関する声を国民が挙げたからといって、処刑される心配はないし、選挙で国民の声を届かせることができるものね」
「そういえば、君の国に至っては、皇帝や天皇陛下さえいないよね」
「その通りだけど、私の祖父は大統領、国家元首を務めたのよ。凄いでしょ」
「はいはい、選挙で落選して、唯の人になったよね」
「それこそが選挙というものよ」
徳川完子と久我通前の会話は、明の政治体制については話すうちに少しズレて進みだした。
美子はその会話を聞きながら、ふと考えた。
徳川完子の祖国は、北米共和国になる。
そして、言うまでもないことだが、完子の祖父は徳川家康だ。
家康は北米共和国の初代大統領を務めたが、6年前の選挙で落選してしまった。
そして、政界から表向きは引退して唯の人に家康はなっているが、それこそ北米共和国独立以前から培っている様々な人脈等は、北米共和国内で今でも広がっているとか。
そんなことを、北米共和国等への旅行中に義姉の上里愛が言っていた。
更に考えれば、完子の伯父はローマ皇帝エウドキヤの皇配の浅井亮政だから、完子は何れはローマ皇帝の従妹にもなる訳か。
考えてみれば、完子はトンデモナイお嬢様だ。
それに対して自分は、一応は実父は従五位下の官位持ちだけど、実母は今でこそ自由民だが、元奴隷の身だから、本当に格が違うな。
そんなことを美子は考えたが、その内心の声が他の二人に聞こえたら、お前が言うな、という声を二人揃ってすぐに挙げただろう。
確かに美子の実母はそうかもしれないが、養母は皇室とも縁がある広橋家の出身になるのだ。
又、実父自身はその通りだが、その実父の閨閥となると摂家並みだと謳われる存在だ。
何しろ義理の伯母は、織田(三条)美子で、その夫は正一位にして初代首相の織田信長の妻になり、自身も従二位の官位を持つ元尚侍で清華家の三条家出身になる。
又、元内大臣の九条兼孝の正室の敬子は実の伯母になり、現首相の二条昭実の義理の従妹(昭実の妻は美子の従妹)にも美子は成るのだから。
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