第67章―3
さて、上里美子が建州女直に関する書籍を読み終えて、まとめをざっと作っていた頃、久我通前と徳川完子は協力して、シベリアの状況を調べていたが、役に立ちそうな書籍が図書館内にほとんど無いことに絶望していた。
司書の人に聞いても、それこそ百科事典のようなモノを勧められる有様だった。
そして、それを読んで、取りあえずのまとめを二人は作ることにした。
二人は小声で話し合いながら、まとめを作った。
「色んな少数民族がシベリアには住んでいるのね」
「トルコ系とかウラル系、更には系統不明の言語を話す民族(エニセイ語他)とか、本当に色々だね」
「主にトナカイを飼っていて、それで暮らしているようね」
「特に国みたいなものはなく、それこそ少数民族毎に村単位で暮らしているようだよ」
「これくらいでいいかな」
「そうね」
手抜きと言えば手抜きだが、資料が乏しい以上は仕方がない。
そう二人は割り切って、シベリアについてはこれで済ませることにした。
そして、二人がシベリアに関するまとめをざっと作った頃、美子が建州女直に関する書籍に目を通してまとめをざっと作ってきた。
それを三人はお互いに読み合った後、続けてモンゴル、明帝国の北方周辺の調査に取り掛かった。
三人が思い思いに図書館にあったモンゴルに関する書籍を手に取って、拾い読み、斜め読みを暫くした後、三人は小声でモンゴルに関するまとめについて話し合いを始めた。
「16世紀初め頃にダヤン・ハーンという人がモンゴルに住んでいるモンゴル系、トルコ系の民族集団を6つのトゥメンに再編成したのね」
「トゥメンというのは軍事・行政集団で、国家と言えば国家と言えるモノという理解で良いよね」
「東にいるのが、チャハル、ハルハ、ウリヤンハンの三つ。西にいるのが、オルドス、トゥメト、ヨンシエブの三つ」
「とはいえ、その後の歴史の流れの中で、ウリヤンハンやヨシンエブはどうも主だった集団としては消えているようね」
「ということは今はほぼ4つになっているということか」
完子と通前が話し合ってそこまで進めているところに、美子がそこで口を挟んだ。
「確かに背景歴史を抑えないと、色々とまとめにならないわね」
「ああ、背景歴史まで抑えないといけない。こんなに大変とは考えなかった」
完子は改めて自分達がやろうとしていることが、いかに大変なことかを痛感した。
「美子ちゃん。その辺りについてはお願い」
「分かったわ」
完子の頼みを聞いて、改めて美子は頭痛を覚えながら、少し説明することにした。
「余り昔にさかのぼるのも何だから、100年余り前までにするけど、その頃はモンゴルが中国本土を征服して元という国を作っていたけど、中国に住む漢民族が叛乱というか、独立戦争というか、そういうのをやって明を建国した。そして、元は北へモンゴルの地へと戻った。ここまではいい」
美子の言葉に、二人は肯いた。
「とはいえ、元というかモンゴルの力は未だに強大だったから、万里の長城を修築したりして、明はモンゴルに備えざるを得なかったのだけど、モンゴルと言えど一枚岩ではなく、内部ではゴタゴタが絶えなかったの。そのゴタゴタを収めたのがダヤン・ハーンで、彼によってモンゴルは再編成された訳ね。尚、元以来の王の証は、今はチャハルが持っているようよ」
美子はそう説明した。
「ということは、今はチャハルが最も有力という理解で良いのかな」
「大体、そんな理解で良いと想う」
通前の問いに、美子はそう答えた。
「後、チベット仏教(ラマ教)が元の時代以降、モンゴルでは広く受け入れられているらしいわ」
「宗教のことまでまとめるの」
美子の言葉に完子はげんなりした声を思わず挙げてしまった。
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