第67章―2
「美子様、本当に有難うございます」
「美子ちゃん、有難う。お母様を介して、ローマ帝国皇帝にお願いしておくわ」
「分かったから。二人共、まずは自分達で頑張って」
「勿論」
「分かっているわ」
家族でやり取りをした翌朝、上里美子は2人に協力することを連絡し、更に久我通前、徳川完子及び上里美子の3人はそんなやり取りをして、学習院内の図書館(尚、大学部の図書館でもある)を駆使して、(この世界の1600年現在の)世界各国の状況を自由研究としてまとめることになった。
そして、まずは日本本国近在の西から東へと徐々に調べてはまとめることに、3人はなった。
「朝鮮半島は李氏朝鮮が治めていて、今の国王は宣祖なのね」
「李氏朝鮮政府は、日本を東夷と見なしていて対等外交さえも拒絶しているらしいな」
「日本はそれこそ産業革命を成し遂げていて発展しているのに、朝鮮は未だに「皇軍来訪」以前の産業のままなのでしょう。どちらが夷狄といえる有様なのか」
「見たくない現実は見ようとしないのが、朝鮮なのでしょうね」
「政治体制は王制ということでよいのね」
「細かいことを言えば、今は科挙を通った官僚が政治を担っているみたい。でも、官僚の間では派閥抗争がかなり酷いらしいよ」
そんな会話を3人はまずは朝鮮半島については交わした。
「朝鮮半島の北、満州や沿海州はどうなっているの」
「主に女真族が住んでいて、西南というか明帝国に近い辺り、遼東半島周辺では、明帝国が女真族の一部、建州女直に自治を認める間接統治体制を敷いているらしいよ。それ以外では部族が分裂して存在していて、松花江周辺には海西女直、アムール川(黒竜江)周辺には野人女直という部族がいるらしいね。更に言うと建州女直は五部、海西女直は四部、野人女直は三部に分かれるとも書いてある。海西女直は明帝国と交易関係があるので、それなりに分かるけど、野人女直とかになると資料が少ないから、どこまでそう分けられるのか、は不明と書いてあるな」
徳川完子と久我通前はそんなやり取りをした。
それを聞いた上里美子が口を挟んで、久我通前に言った。
「その資料は少し古くない。確か建州女直は一つにまとまっている筈よ」
「あ、本当だ。出版が1585年と書いてある。ありがとう、間違ったまとめをするところだった」
「こっちの方が新しいから、これを読んだら」
「それ、どう見ても大学生以上向けで、私が読んで分かるかしら」
美子が差し出したぶ厚い書籍に、完子は腰が引けた態度を示しながら言い、通前は無言で肯いた。
「もう、読めば何とかなるわよ。日本語で書いてあるのだから」
「そんなの平然と言って実行できるの、同級生の中で美子ちゃんだけだから」
「だから、協力をお願いしたんだから」
美子の言葉に追い討ちを掛けられ、二人は半泣きになった。
「分かったわよ。私が読んでまとめるから。二人は満州より北、シベリアからモンゴルをその間に調べて、少しでも時間が惜しいから」
「ありがとう。いざという際にはローマ皇帝に本当にお願いするから」
「本当に姉にするからね」
美子の言葉に、二人はホッとして、別の書籍を探しに行った。
美子は二人を見送って、溜息を吐いた。
まあ、通前はいい男になりそうだけど、私の好みじゃないから。
更に言えば、通前も私のような才女は実は苦手らしい。
だから、姉にするというのだろうな。
美子は、そんなませたことをつい考えた。
ちなみに美子が選んだ書籍は、確かに小学生が読むには難しめだったが、美子の目からすれば高等部以上向けで、完子の言葉は言い過ぎだった。
美子はそれを読み、建州女直についてはヌルハチが取りまとめていることを自由研究に書くことにした。
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