第67章―1 1600年当時のこの世界(上里美子ら視点)
新章の始まりになります。
1600年8月下旬、上里美子は二人の同級生、徳川完子と久我通前を睨みつけながら、怒りの籠った声を挙げざるを得なかった。
「何で私が宿題に協力する必要があるのかしら」
「美子さんに協力して貰わないと間に合わないから、心からのお願いです」
「そうそう本当に親友なのだから協力して」
「今から絶交と私は言いたい気分よ」
二人はそれこそ平身低頭しながら言っているのだが、流石の美子もそう言わざるを得なかった。
さて、何でこんな事態になっているのかというと。
徳川完子と久我通前は夏休みの宿題の自由研究として、「現在の世界の国々を調べて(仮)」というのを共同してやろうと夏休み前から二人で相談していたのだが。
お互いに相手を当てにしていて、後10日に満たないこの時期になっても手つかずと言って良い惨状になっていたのだ。
慌てて二人は友人である上里美子に協力を仰いだ次第だった。
だが、美子にしてみれば、絶対にお断りと声を挙げたい気分だった。
美子の方は、それこそ実母で義姉の上里愛と行った北米等への旅行で見聞した動物、リョコウバトやミカドカイギュウ等の現状について自由研究としてまとめて提出の準備を整えていた。
勿論、他の夏休みの宿題も全て済ませていて、美子は夏休みの残りを遊んで過ごすつもりだった。
それなのに二人の頼みを聞いては、今から勉強する羽目になる。
だが、二人にしても必死だ。
実は美子は両親の血を承けたためか、極めて頭が良い。
(更には芸術の才能も父方祖母の上里愛子譲りで文才も楽才も優れているが、いわゆる運動神経については平均以下で、辛うじて持久力(長距離走等)だけが平均以上というのが現実だった)
だから、美子に協力して貰わないと、二人が考える限り夏休みの宿題が夏休み中に終わらない。
そう考えた二人は美子に対し、本当に平身低頭のお願いをしていた。
「本当にお願い。これに協力してくれたら、結婚する際に自分の猶姉として嫁ぐのを認めるから。それこそ皇后さえも望めることになるから」
「たかが夏休みの宿題に、久我家当主として本当になりふり構わないお願いをするわね」
通前の言葉に、冷えた言葉を美子は返した。
実際に間違ってはいない。
それこそ美子は上里清のいわゆる妾腹の子なのだ。
上里家は(表向きは)公家ではない以上、美子は入内等は現状では望めない身分である。
だが、清華家の久我家の娘になれば、それこそ皇后にも美子はなれるのだ。
「私からもお願い。お母さんにお願いして、いざという際には、ローマ帝国皇帝エウドキヤ陛下からの御言葉を賜るように働きかけるから。それで、何とかならない」
「本当に無茶苦茶を言っていない」
完子の言葉に、更に冷えた言葉を美子は返した。
たかが夏休みの宿題を終わらせるのに、ローマ帝国皇帝の言葉を賜ろうとは。
だが、ここまで言われては、流石にいわゆる寝覚めが悪い話になる。
「分かった。家族と相談させて。明朝に返事をするから」
そう言って、美子は二人を実家に一旦は帰らせた。
そして、そんなやり取りがあった夕方というより夜に。
「本当に無茶苦茶ね」
「呆れてモノが言えない話」
上里美子の養母の理子と美子は、そんな話を夕食の際にしていた。
「でも、断るのも後々で問題になりそうですね」
「確かにそうね」
美子の義姉の上里愛が口を挟んで、理子もその言葉に肯きながら言った。
最終的には理子が事実上の決断をした。
「美子、二人に協力しなさい。でも、二人が頑張るのが大前提で、それに助言するという形にしたら」
「そうする」
美子は、そう養母達に答えることになった。
実際問題として、美子にしても二人に全く協力しないのは、寝覚めが悪い話に他ならなかったのだ。
多くの読者にとって既知になるので説明を省略しましたが。
徳川完子も久我通前も両親とは同居しておらず、又、二人共に兄姉がいないといっても過言ではない(通前には兄がいますが、北米共和国で逃亡生活中)状況です。
こうしたことから、夏休みの宿題を終わらせるのに二人は両親や兄姉を頼れず、上里美子を頼るしかないのです。
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