第66章―15
そして、二条昭実首相と織田(三条)美子の密談があった数日後、秘密の閣議が開かれていた。
伊達政宗農水相は、何故に閣議が開かれることになったのかと疑問を覚えながら、出席していた。
この場には閣僚全員(約20人)がいるが、自分と同様に何故の閣議なのかを知らずに集っている閣僚が大半のように自分の目からは見受けられる有様で、横の閣僚とひそひそ話を多くがしている。
その一方で、小早川道平外相や武田勝頼陸相、九鬼嘉隆海相は覚悟を固めたような顔をその中でしており、他の閣僚が話しかけることを拒む雰囲気を漂わせている。
伊達農水相はすぐ横の閣僚とひそひそ話をしつつ、その3人の顔を見て察した。
これは軍事や外交に関する秘密閣議の可能性が高いな。
だが、今、緊急かつ重大と言える軍事や外交の問題があっただろうか。
二条首相は何を考えているのだ。
そんなことを伊達農水相が考えていると、二条首相がこの場に現れて閣議が始まった。
「最初に言っておく。この場にいる者以外には、この閣議が開かれたことさえ、私の許可が出るまでは一切話すな。これは極めて機密を保つ必要がある事なのだ」
二条首相の冒頭の発言に、伊達農水相を含む多くの閣僚が思わず背筋を伸ばした。
そして、それに続いた言葉に伊達農水相他は驚愕した。
「日本は戦争を行う。詳細は小早川外相に説明させる」
戦争だと、伊達農水相等の事情を知らなかった閣僚全員が驚愕した中、小早川外相の説明が始まった。
「これまで日本に対して明からアヘン系麻薬が密輸品として流入してきていたのは、多くの方がご存知の事と考えます」
この小早川外相の言葉には、伊達農水相を含む多くの閣僚が肯いた。
「このことについて、非公式の外交交渉を外務省は明政府と行ってきましたが、このアヘン系麻薬の密輸に関しては、建州女直を取りまとめているヌルハチが大いに関与しているらしいことを外務省は突き止めました。それで、明政府にそれを止めさせるように求めたところ、ヌルハチと明は無関係であると明政府は言いました。それならば、ヌルハチを日本が攻めても良いのか、と言ったところ、明と無関係である以上は構わないとまで明政府は言いました。ここまで明政府が言う以上、日本としてはヌルハチを攻めて、アヘン系麻薬の密輸を止めさせるべきと考えますが如何か」
そういって、小早川外相は、一旦、言葉を締めくくった。
(尚、実際に日本と明は非公式の外交交渉を現場レベルで行っている)
「陸海軍部としては、外相の意見に同意する。陸軍の常備兵力の大半を投入することになるだろうが、一撃を与えて、ヌルハチを叩くことは充分に可能だ」
小早川外相の言葉に呼応して武田勝頼陸相がすぐ声を挙げ、その言葉に九鬼海相が深く肯いた。
この件について初めて聞かされたと言って良い他の閣僚が、隣の閣僚と話し合いを小声で始める中、伊達農水相は隣の閣僚の言葉を無視して、自分の考えに沈んだ。
どうも怪しい。
自分の職務上、ヌルハチがいる満州の農業等はそれなりに把握している。
明国内で最大のケシ栽培の地は、ヌルハチの抑えている場所ではない。
明政府がわざわざヌルハチを介してアヘン系麻薬の密輸をさせて、ヌルハチに甘い汁を吸わせるとは自分には考えにくく、偽情報を掴まされたのではないか。
だが、外務省と陸海軍部は、ヌルハチと戦う気のようだ。
ということは、この情報は真実という事か。
いや、逆か。
偽情報に踊らされたことにして、外務省と陸海軍部はヌルハチと戦うつもりなのだ。
更に二条首相もそれに同意していて、秘密の閣議で了解を取ろうとしている。
それにしても何故にヌルハチとの戦争を、二条首相は決断したのだろうか。
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