第66章―13
小早川道平外相、武田勝頼陸相、九鬼嘉隆海相、黒田官兵衛諜報部長官の会談は、最終的に以下のように結論をまとめて、二条昭実首相に報告が為された。
1,ローマ帝国の東進に備えるために、日本としては東アジアに同盟国を作る必要がある。
2,とはいえ、現状では日本の同盟国に足りる国は存在しない。
3,外務省、陸海軍部としては、建州女直をまとめているヌルハチをまずは叩いた上で、日本の同盟者として迎え入れるのを至当と考える。
4,そして、ヌルハチを支援して、女真族を統合させて満州及び沿海州を領土とする王国をヌルハチに建国させて、その満州国を日本の忠実な同盟国とし、日本軍の一部を監視を兼ねて防衛の為に満州国に駐留させる。
「ふむ」
二条首相は、4人の会談の結論を読んで、色々なことが頭を過ぎったが、まず一番に想い起こしたのは自らの義母になる織田(三条)美子のことだった。
自分も内大臣を務めた際に触れようと考えれば十分に職務上触れれたのだが、自分は決して触れなかったのが、宮中で最重要機密書類とされている皇軍が遺した(皇軍がいた世界の)歴史関係の(原則として今上陛下と内大臣、尚侍の3人しか触れてはならないとされている)資料だった。
自分としては、「皇軍来訪」によって大きく歴史が変わっている以上、更に皇軍がいた世界と自分達のいる世界では色々と微妙な(資源産出や地形等の)違いがある以上、下手にそういうのを知っては却って判断を誤ることになるとして、最初から手を付けなかったのだ。
だが、義母の織田美子は、大胆にも尚侍在任中はそれに触れ続けた(らしい)。
恐らくだが、オスマン帝国のスルタン=カリフ制にしても、その資料から義母は発案したのだ、と自分が考える程、義母の様々な発想は自分では考えが及ばないところがある。
そういった経歴、考えの持ち主の義母が尚侍時代に、自分に言ったことがある。
「明を始めとする東アジアの問題だけど、何れは女真と手を組むべきだと私は考えるわ」
「それは皇軍知識によるものですか」
「いいえ、巫女の私からの託宣だと考えて」
「分かりました」
巫女ね、それが私の正直な想いだった。
今上陛下は現人神とされている。
だから、それに直に仕える尚侍は巫女といっても、あながち間違いではない。
だが、義母が言うのは別の意味からだ。
「皇軍知識」からというのを肯定しては、却って悪い事態が起こると義母は考えたのだ。
だから、巫女の私からの託宣だと韜晦したようなことを言ったのだ。
確かに未来知識(?)というのは諸刃の剣だ。
実際の歴史と違う流れを歴史が辿っているから、といって無価値になるとは限らないが、かといって未来知識通りに歴史が流れる筈が無く、有害になりかねない。
そういった辺りを考えて、義母はそう言ったのだ。
自分が信頼する4人の言葉、更にかつて義母が言ったことまで考えあわせれば、ヌルハチをまずは叩いた上で、日本は明に騙されたと言い訳をして、ヌルハチの明に対する敵愾心を煽った上で、日本とヌルハチが手を組む、というのは充分に可能だし、自分はそう動くべきなのだろう。
だが、快晴の青空の中にそぐわない浮雲を見つけたような違和感を自分は覚える。
こういった謀略によって、ヌルハチを叩いた後で、ヌルハチの明に対する敵愾心を煽って、日本との同盟を承諾させるというのは、本当に正しいことなのだろうか。
二条首相は色々と考えた末、義母の織田美子と密かに話し合って決断することにした。
自分が信任して選んだ内閣の面々(黒田諜報部長官は異なるが)からの提案とはいえ、積極的に日本を戦争に突入させようという内容の提案とあっては慎重に判断せざるを得なかった。
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