第66章―11
そんなことを内心で考えつつ、主に黒田官兵衛諜報部長官が女真族及び周辺情勢を説明して、それに対して武田勝頼陸相が更なる説明を主に求め、小早川道平外相や九鬼嘉隆海相が時折、その二者のやり取りに口を挟む時間が暫く続いた。
そして、黒田諜報部長官にしても、自らが直に把握している情報を全て話し終えた気がしだした頃、武田陸相が言った。
「ふむ。ヌルハチと一戦交える必要がありそうだな」
「いきなり何を言われる」
小早川外相が言った。
他の二人も、流石にいきなりそんな言葉が武田陸相から出るとは考えてもおらず、顔色を変えた。
「いや、最初は真田昌幸参謀総長が言いだして、自分としては反対していたのだが。今の説明を聞いて、改めてヌルハチと一戦交える必要があると自分も考え出した次第だ」
武田陸相は言った後、自分というか真田参謀総長の考えを述べだした。
以下は、その要約になる。
ヌルハチを援助して日本の同盟者にするのが至当なのだろうが、実際のところ、ヌルハチの性格等から考える限り、日本が同盟を組んだとして、それが日本に協力的な同盟になるか、というと疑問がある。
一度、ヌルハチと日本が戦争をして、その上で日本が上位の同盟を締結した方が、日本にとって安定した同盟関係締結に資するだろう。
「明とヌルハチの間には既に間隙ができています。ヌルハチと明の対立を煽って戦争に突入させ、ヌルハチに日本が味方する方が至当だと考えますが」
武田陸相の話を聞き終えた小早川外相が言うと、武田陸相は首を横に振って言った。
「ヌルハチに日本が味方するとして、どういった理由でするのだ」
「それはその方が、日本の国益につながるからです」
「日本の国益という理由で、日本本国の世論がヌルハチに味方しろ、と叫ぶと考えられるか」
二人のやり取りは続き、それを聞いた九鬼海相や黒田諜報部長官も考え込んだ。
確かにその観点は無かった、というのが黒田諜報部長官の脳裏に浮かんだ。
日本の国益という観点からすれば、そうするのが至当なのだろうが、それでは現状からして日本本国の世論がヌルハチ支援に動くか、というと極めて疑問がある。
そもそも、どういう観点からヌルハチに味方するのが日本の国益になると、日本の世論に訴えるのだ、ローマ帝国の東進に備えるため等と訴えた場合、多くの国民から杞憂にも程がある、と冷笑されて終わりになりかねない。
何しろローマ帝国は未だにモスクワ大公国の併合さえ果たしておらず、ローマ帝国の勢力は全くウラル山脈を越えていないのだ。
「熱河省地域で産出されるアヘン系麻薬が、ヌルハチが事実上収めている地域を通って、日本に輸出されている。明に善処を求めたが、明はヌルハチは無関係だ、と白を切ったので、日本としてはヌルハチを叩いて、アヘン系麻薬の密輸を防ごうというのはどうか、と真田参謀総長は言っている。勿論、実際には明で生産されて日本に密輸されているアヘン系麻薬の多くは、明本土から輸出されているようだが、日本の世論をそれで煽って、ヌルハチを叩くのはどうか、と自分も考えるがな」
武田陸相は、敢えて悪ぶって言った。
成程、他の三者は目で会話した。
確かにその方が、まだ筋が通る。
実際に明国内で生産されているアヘン系麻薬が、少数とはいえ日本に密輸されているのは事実で、日本国内で密売されているアヘン系麻薬はほぼ全てが明の国内産とされているのも事実だ。
だが、密輸である以上、正確な輸送ルートは不明と言って良く、一番有力なのが、明本土からの直輸入なのだが、それをヌルハチが仲介しているということにするのか。
それならば、日本本国の世論はそれなりに支持が集まるだろう。
三人はそう考えた。
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