第66章―6
ともかく1600年当時の明政府も朝鮮政府も、日本の陰からの使嗾もあって、様々な意味で腐敗したり、内部党争が絶えなかったりする惨状を呈していた。
そして、日本としても、その状況に満足していたのだが。
ローマ帝国がもしもではあるが、本格的に東進してきて、沿海州や朝鮮半島をローマ帝国領にするような事態が起きては、更に日本海に艦隊を展開するような事態が起きては、日本にとって重大な安全保障上の危機が起きることになる。
そして、技術の進歩はロケット、弾道弾を徐々に現実の兵器ともしつつあるのだ。
もしも、沿海州や朝鮮半島にミサイル基地が建設されて、そのミサイルが日本本国に向けられるようなことになったら。
これも又、日本にとっては重大な安全保障上の危機に他ならなかった。
そして、そのようにローマ帝国が動いた場合、明や朝鮮がそれを阻止できるのか、というとこの場にいる4人が情勢分析を行う限り、極めて疑問だった。
何しろ明や朝鮮の最上の武器は、未だに火縄銃や石弾を撃つ大砲なのだ。
日本とそう見劣りがしない武器、それこそ歩兵用のボルトアクション式小銃から戦車、軍用機まで保有しているローマ帝国軍の質的優位は明らか極まりない話だった。
更に言えば、ローマ帝国軍は明人や朝鮮人を虐殺するのに良心の呵責を感じないだろう。
何しろ明人や朝鮮人はキリスト教徒ではないし、モンゴル(タタール)と手を組んでロシア諸公国を攻撃してきた前科が昔あるのだ。
その報復を行うと女帝エウドキヤが叫べば、ローマ帝国軍は容赦なく明人や朝鮮人を殺戮して、その後にロシア人を始めとするローマ帝国の住民を入植させるだろう。
何しろロシアの民にとって、暖かな土地は常に求められてきたモノだ。
その暖かな土地として黄河や長江の流域一帯をロシア人らが求めない、と考えられるだろうか。
となると。
小早川道平外相や黒田官兵衛諜報部長官、武田勝頼陸相や九鬼嘉隆海相としては、ローマ帝国への対策を明や朝鮮以外を頼って行わざるを得ない、と暗黙裡に事前に考えてこの場に集っていた。
そして、どこと手を組むべきか。
黒田長官がまずは口を開いた。
「明政府や朝鮮政府の現状に鑑み、私は女真族と日本が手を組むべきと考えています。女真族はかつて満州から中国本土の北半分まで征服して金王朝として統治したことがある大勢力になります。その後、モンゴル、元朝によって女真族は征服されて、又、明朝の成立があったことから、ほとんどの女真人は満州の故地に戻っていて、多くが明朝の統治下に雌伏を強いられています。この状況を、日本にとって有利になるように活用すべきではないでしょうか」
九鬼海相がそれを聞いて口を開いた。
「女真族は確か分裂抗争していると聞いたことがあるが、どのような状況なのだ」
黒田長官が、即座に(この世界の)女真族の状況を補足説明した。
以下は、その要約になる。
遼東半島およびその周辺にいる建州女直五部、松花江流域に主にいる海西女直四部、アムール川流域にいる野人女直三部に、この頃の女真族は分かれていた。
そして、建州女直五部はほぼ明の間接統治(要するに自治が認められている)下にあり、海西女直四部は各々が独立して明と交易を行う等の友好関係を結んでいる。
その一方、野人女直は三部と称されるが、各部がまとまっているとは言い難く、緩やかな部族社会を形成しているようだ。
更に言えば、明政府の
「分割して統治せよ」
という方策から、建州女直も海西女直も各部の相互抗争が絶えなかったようだが、10年程前(具体的には1588年)にヌルハチという者が建州女直に関しては統一を果たし、海西女直四部も自らが抑えようとしている。
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