第65章―13
「ともかくローマ帝国がモスクワ及びその周辺を征服した後、モンゴル、タタールの脅威を恒久的に排除しようとして、ウラル山脈を越えてシベリアへ中央アジアへ、と侵出してくる可能性はあり得ると懸念されている。その果てには中国本土にまでローマ帝国の軍旗が翻るようになったら、本当に日本にとって安心できない状況になる。それにイスラム教徒と日本は、オスマン帝国との関係もあって友好的な関係を「皇軍来訪」以来、ずっと築いているということもある。そうしたことからすれば、中央アジアのモンゴル、タタール系のイスラム教徒を、日本は支援せざるを得ないが、その方法をどうするか、という問題もある」
伊達政宗は、上里愛にやや長めに自らの考える世界情勢を語った。
愛は政宗の言葉を考え過ぎだ、と単に切り捨てられないことに気づいた。
何しろローマ帝国は昇竜のような勢いで、現在進行形で領土を拡張しているのだ。
この領土拡張の矛先が、中央アジアへ向かわないと楽観すること等、これまでのローマ帝国の進撃からして、とてもできはしない。
だが、ここまでのことを言うということは、政宗なりの腹案があるか、何か聞かされているのやも。
そう考えた愛は、政宗に水を向けた。
「日本政府は、それに対して何か手を打とうとしているのですか」
「今のままでは完全に手詰まりだ。何しろ明帝国と日本の関係は、ずっと冷戦状態が続いている。中華思想に向こうは凝り固まっていて、それこそ本格的な戦争でもしない限り、明帝国との関係は変わらないと自分は考えているし、日本政府や軍上層部も同様だ。それこそ、
『以後、明帝国を対手とせず』
が公式の外交方針となっているといっても過言ではない」
「確かにそうですね」
政宗の言葉に、愛は同意せざるを得なかった。
それこそ戦車や自動小銃さえ保有している日本陸軍に対して、明帝国陸軍は未だに火縄銃や石弾を使った大砲が第一線の戦備なのだ。
海空軍戦力に至ってはもっと話にならず、ジェット機さえ保有している日本に対して航空戦力は明帝国は零、大和級戦艦や空母までも保有している日本に対して、ガレー船や帆船で明帝国は戦おうとしている有様であり、日本の軍関係者は、日本と本気で戦えると明帝国の軍関係者は考えているのか、狂人が集まっているのではないか、と考えている有様だった。
(尚、次の章で詳述するが、実際には明帝国の軍関係者とて殆どが、日明戦争に突入した場合に明帝国の勝算は絶無であると考えてはいる。
だが、明帝国の恐怖政治は、そういった考えを軍人が言った瞬間、その軍人は三族皆殺しになる有様になっており、その考えを口にせずに日明戦争に勝算あり、と軍関係者は公言せざるを得なかった。
更に言えば、その明帝国の恐怖政治の背後には、明帝国の腐敗とそれを助長する日本の諜報部の暗躍もあったのだ)
それだけの軍事力格差がある以上、日本としては明帝国と戦争をしても絶対の勝算があるといえるが、問題は戦争を始めたとして終わらせる方法が無い、といっても過言では無いのが問題だった。
今の日明関係は国交断絶、冷戦状態と言える状況だが、実際には民間貿易が半公然と行われている有様であって、特に戦争をしないといけない理由があるのか、と言われれば無いのだ。
戦争を始めたとして、明帝国を開国させて対等の外交関係を結ぼう等の講和条件に明帝国は断じて応じないだろう。
更に、それこそ北京から洛陽、長安、成都と首都を移転させて明帝国が抗戦した場合、日本の方が色々な意味で息切れしてしまい、何のために戦争をしたのか、という事態が起きかねない。
だから、日明戦争は絶対不可というのが長年の日本の外交方針だった。
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