第65章―8
そんな感じで衆議院の与野党の有力議員の下を、暇な際には上里愛は訪問して、議員本人なり、側近の第一秘書なりから、日系植民地の独立問題の意見を聞いているのだが。
愛としても、先がどうにも見通しづらいのが現実だった。
それこそ、愛にしてみれば上司と言える伊達政宗を始めとして愛が接触して話をする限りは、多くの衆議院議員が、何れは日系植民地についてはその地の住民が望むならば独立して国家を作るのを認めざるを得ないと考えるようになっている。
だが、問題は何れはであって、自分からはそれに対する意見を言いづらいという状況にあるのだ。
何しろ多くの日本本国の国民が、日系植民地は日本本国が苦心惨憺の末に開発した代物であり、その植民地を手放して独立を認める等、農産物等の問題もあって理性では止むを得ないかも、と考えつつ、感情的には絶対反対と叫ぶ現実があり、そういった民意がある以上、衆議院議員の大半が日系植民地問題について独立を認めても良いのでは等は、なかなか言えないのが現実だった。
かといって、日系植民地をこのままにしておいては、色々な意味で手詰まりである。
何しろ日系植民地の住民の多くが、日本本国の政治に関われないことに徐々に不満を訴えつつある。
それこそ1574年に(この世界の)大日本帝国憲法に基づく国政選挙が始まった頃は、航空機が開発されたばかりであり、太平洋を航空機で横断する等は夢物語だった。
だから、国政参政権については日本本国のみということについて、時間の問題等から止むを得ないと日系植民地に住む日本人のほとんどが納得したのだ。
(それこそ南米にある日系植民地とかになると、汽船頼りということから、日本本国と地元を往復するだけで数か月を覚悟する状況である。
こんな状況で国政参政権等、とても行使できる訳が無い、と多くの植民地の住民が考えたのだ)
だが、今や航空機が発達したことにより、それこそ途中で給油が必要だが、航空機による太平洋横断さえも可能な現実があるのだ。
そうなると南米からでも日単位で往復ができるようになってくる。
そう言った状況から、植民地に住む日本人にも国政参政権を認めろ、認めないのならば独立するという声が植民地から高まるのも当然だった。
更に言えば、日本本国に住んでいれば、それこそ上里愛や織田(上里)美子が良い例だが、日本人の血を全く承けていなくとも、日本人と結婚したり、養子になったりして日本国籍を取得した元外国人が国政に参加して、国会議員にもなることができるのだ。
その一方で、両親が共に日本人で日本国籍を持っていながら、南米に住んでいる伊達政宗の弟の秀宗には国政参政権が無い。
幾ら何でも不公平だ、と日系植民地に住む日本人が不満を高めるのは当然だった。
そして、それに対処するとなると、独立を望む植民地には独立を認めるのが妥当だろう。
だが、それを誰が日本国内で言いだすかだ。
上里愛としては、それこそ選挙とは無縁である二条昭実首相が言い出すのが、一番、無難なのではないか、と考えるのだが。
二条首相も、世論という風を読んでいるのか、この件に対しては発言を慎んでいる。
何しろ自らを支えている連立与党の更に各党内部でも、理性では分かっているが感情的には、という議員が圧倒的多数とあっては、二条首相も頭が痛いのだろう。
愛は二条首相とは義理の従兄になるので私的に会うこともあって、そう言った場でそれとなく植民地問題について二条首相に水を向けたこともあるのだが、言を左右にして逃げられてしまった。
私的な場においてさえ、二条首相が口を開かない。
本当に難儀な問題だ、と愛は考えながら、色々と政宗の為に動いていた。
えっ、とツッコまれそうですが。
実際に上里愛は上里清の義子で、二条昭実の妻は織田(上里)美子の娘の陽子なので、上里愛と二条昭実は義理の従兄妹になるのです。
だから、上里愛は私的に二条首相に逢うことさえできる立場になります。
(それにしてもオスマン帝国での元奴隷と摂家当主が、義理の従兄妹関係とはやり過ぎと言われそうです)
ご感想等をお待ちしています。




