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第64章―3

 そんなことを考えた後、上里清は反応兵器の実際の爆発を観測するための観測所に入った。

 そこには既に身内でもある織田信忠海軍大佐が待ち構えていて、声を掛けて来た。

「てっきり、私と一緒に来られるのか、と考えていましたが」

「こういったことは、少しでも分散して行動した方が、機密保持の観点から妥当だ。陸軍少将と海軍大佐、所属する軍が違う以上、一緒に行動しているとどうしても目立つからな」

「確かにそうですね」


 何でもないやり取り、だが、それで、多少は緊張がほぐれた気が自分はする。

 自分が来る前に、この場において100トンのTNT火薬を実際に爆発させて、その威力を実際に観測している。

 それを実地に見て、今回の反応兵器の威力とそれを自分の目で比較したい、と自分は考えなくも無かったが、やや長く日本本国を離れることから機密漏れの危険が増大すると考えて自重したのだ。


 自分自身で情報の再確認をするために、織田大佐とやり取りを清はすることにした。

「地上30メートルの高さに、反応兵器は設置されたのだな」

「はい。地上で直に爆発させては、大量の粉塵が巻き起こる可能性があること、又、少しでも航空機から投下した場合と近いように、ということから、そのように設置されています」

「この観測所との間の距離は20キロだったな」

「安全距離の観点から、そのように設置しています。尚、この観測所は半地下式であることも相まって、それこそメガトン級の威力が無い限りは耐えられるように設計されていますが」

「それ以上は言うな。実際、どれだけの威力があるのか。色々な意味で自分は考えたくない」

「そう言われれば、自分もそうですね」

 義理の叔父甥は、そんなやり取りをした。


 実際の爆発の威力については、それこそ専門家である科学者の意見も千差万別といってよい。

(そもそも、この件に関与していてかつ詳細を知っている科学者が1000人もいないというのは、取りあえず置いておこう)

 だが、それくらい反応兵器の威力は不明確なのだ。


 流石に地球が消滅するような事態はほぼ否定されているが、反応兵器の威力によって、豪州大陸のほとんどの生物が絶滅する可能性は否定できない、という意見まで現実に出ているのだ。

 だが、その一方で大した威力はない、そもそも爆発しない、という意見まで出ているのだ。


 清は内心で想った。

 娘達が絶滅が危惧されている生物を北米に見に行っているときに、自分は豪州の生物を絶滅させかねない兵器の実験をしようとしているとは。

 何と人生は皮肉に満ちていることか。

 そんなことまでも想うと、何故か清は微笑してしまっていた。


 それを横で見た信忠が、声を掛けて来た。

「何か面白いことでも想われたのですか」

「いや、ちょっと娘達のことをね」

「ああ」

 身内として、信忠は清の娘達、愛と美子のことをよく知っており、今、北米に赴いているのを思い起こした。

 更にその目的までも。


「本当にどれだけの威力があるのか。恐らくこの実験から、色々なことが始まる気がします。豪州大陸のほとんどの生物が絶滅するような事態が起きないことを願いますよ。もっとも、それ程の威力がもしあった場合、自分達はそれを見ることなく、すぐ確実に死んでいるでしょうが」

「だろうな」

 その場合、悔やむことなくあの世に逝くことになるな、そこまで考えが及んだが、それを口に出したら、本当になりそうで、だろうな、までしか清は口に出せなかった。


「それでは、反応兵器の威力をじっけんしますか」

「そうだな」

 完全に引き返せない、新世界が開くことになるやもしれない。

 そんな想いが清の頭の中で過ぎりつつある中、反応兵器の実験の最後のカウントダウンが始まった。 

尚、最後の辺りで「じっけん」と平仮名表記があるのは、「実験」か「実見」かどちらが相応しいか迷った末に平仮名表記にしたからです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 北原も一応、理系ですがZND理論とかチンプンカンプンですね。(じゃなきゃ、困ります。) それはそうと、上里清さんも織田信忠さんも常識的かつ良識的な人物で良かったです。だからこそ苦悩があるの…
[良い点]  おそらく長崎に投下されたファットマンクラスの反応兵器実験、20キロの距離を開け半地下のベトンに囲まれているのに当事者の清さんたちの会話から緊張感がじわりと締め付けられるのが伝わる。 [気…
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