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第63章―15

 そんな裏事情もあったが、上里愛と美子はベーリング島に無事にたどり着くことに成功した。

 ベーリング島の地面に降り立った時、美子は思わず呟いた。

「想像以上に寒い」

「そうね」

 愛は妹の言葉に即答しながら、体感温度は10度以下といったところか、と考えた。

 予め調べてはいたが、本当にベーリング島は寒い。


 実際、ベーリング島の8月においての1日の最高気温は13度、最低気温は10度が平均といったところらしい。

 昼下がりにベーリング島に着いた以上、一番暖かい時間帯の筈だが、想像以上の強風のために体温が奪われてしまい、本当に寒く感じてしまう。

 それなりに日本の冬を想定した服を着こんでいるが、それでも寒く感じてしまう。

 そう愛は考え、傍の美子も両肩を抱くような様子を示している。


 愛と美子は予め手配していた四輪駆動車に急いで乗り込んで移動することにした。

(少数とはいえ、それなりに動物の生息数調査等の為に来訪する人がベーリング島にはいて、そのための人やモノが準備されているのだ)


 そして、宿にたどり着いて、少し長旅の疲れを癒して、一晩泊まった翌朝、軽飛行機を使って空からミカドカイギュウの群れを姉妹は望見した。

「すぐ傍で見られれば良いのに」

「そうね。でもあんなに大きな生き物なのよ。傍に近寄って、急に体当たりとかをされたら、トンデモナイことになるわよ」

「その通りだけど」

 美子と愛はそんなやり取りをした。


 実際にその通りで、ミカドカイギュウは成獣ともなると体長が7メートル余りもあり、体重が10トンを超えるのが平均なのだ。

 その癖、人間を危険と考えていないようで、好奇心から近寄ってくることが多い。

 更に仲間が傷つくとそれを助けようと集まる性質まで持っている。


 そのために(この世界では)初の発見となった牟田口廉也将軍達の探検隊は、ミカドカイギュウを容易に狩ることができ、その肉や乳を手に入れることで生き延びることができたのだ。

(更にその後、当時の今上(後奈良天皇)陛下が、その性質からミカドカイギュウの名を与えられたことから、牟田口将軍は自発的に謹慎せざるを得なくなったという余談がある)


 ともかく、こうしたことから下手にスクリュー船で近寄ると、ミカドカイギュウが船に近寄ってきてぶつかってスクリューで傷ついて、更には仲間までが傷つく事例が多発したことから、飛行機からの観察がミカドカイギュウについては基本となっているのだ。

 愛は改めて想った。

 本当にこのような動物が、この世にいるとは想えない気さえする動物だ。


 そんな想いをした後、上里姉妹は大坂を経由して帰宅することができた。

(荷物の積み下ろしの都合からベーリング島で不定期便は丸1日を過ごしていたのだ)


 さて、そんな感じで2週間近くの旅を終えて、上里姉妹は京の自宅に帰宅した。

 するとその間に豪州での用事(軍務)を果たした上里清が帰宅して待っていた。

 清は子どもらを見ると開口一番に、美子に言った。

「リョコウバトとか色々と実際に見られたか」

「うん。あのね~」

 美子は父の問いに対し、北米旅行の間で見たモノをできる限り伝えようと懸命になった。


 更には理子も清の傍にいて、美子の話に目を細めていて、愛は帰宅したことを実感したのだが。

 愛は要らぬことにも更に気づいた。

 清の目が微妙に暗い。


 ということは、この世界初の反応兵器(原爆)実験は成功したのだ。


 愛は改めて考えた。

 この地球、世界にいる動物を滅ぼさないように人が努める一方で、世界を滅ぼせる兵器を人が造る等は本当におかしなことでは無いだろうか。

 やはり、この世界は神が造ったのではなく、神ではない造物主が造ったためにこうなっているのではないのだろうか。

 これで、第63章を終えて、次話から第64章に入ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄い旅ですね。これはちょっと金持ちなくらいの一般人では到底無理。読者も楽しめました。 [気になる点] 反応兵器。 定期的な国際会議(史実世界のG7サミット)と常設国際機関(国際連盟)が欲し…
[良い点] 他の植民地の状況を詳しく聞きたいです。 [気になる点] 旧アステックやインカ貴族は位階を受けていませんか? 現実世界の彼らがスペイン貴族になりました。
[良い点]  オーストラリアと北米と地球の真反対で親は世界を滅ぼす最終兵器に慄き、子は滅びゆく動物たちを守る保護活動に目を輝かせる、なかなか含蓄のある対比になっていて読者も現実世界のあれこれをいろいろ…
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