第63章―8
実際問題として、日本本国にしても様々な生物保護に苦慮しているのが現実だった。
それこそ二ホンオオカミや二ホンカワウソ、二ホンアシカ等が日本全土で減少傾向にあった。
保護区を設けるだけでは不充分だとして、それこそ動物園等で飼育しての人工繁殖まで試みられてはいるが、それも中々上手く行かないのが、(この世界の)現実だったのだ。
北米共和国の場合も全く同様の事態が起きていた。
「リョコウバトやカロライナインコですが、自然の大規模な集団の中でないと繁殖が上手く行かないというのが、現在の動物学者の多数意見ですね。勿論、動物園等で人工繁殖が成功した例もありますが、それで増勢しているかというと、現実には上手く行っていません。1つがいの間で1羽が人工繁殖で何とか生まれて成長しても、それきりということが多発しています。実際問題として、1つがいの間に3羽以上が順調に繁殖していかないと、数が回復する等は夢物語です」
望月千代子は、自らの動物学の知識もあって、そのように上里姉妹に(冷たく聞こえると自分でも考えたが)そう言わざるを得なかった。
美子は千代子の言葉に何も言えなくなっていた。
幾つかの動物園ではリョコウバトやカロライナインコの人工繁殖に成功していると聞いて、それならすぐに増えると考えていたのだ。
美子が黙ってしまったのを横目で見ながら、千代子と愛は会話を続けた。
「カロライナインコの密売が横行しているとのことですが、実際のところはどうなのです」
「カロライナインコはペットとして人気がありますからね。更に実際に個人でつがいを飼って、ひな鳥が生まれて成長した例でさえ、それなりにあるようです。唯、実際にそんなに上手く行った例は、それこそ10のつがいの間で1,2例といったところで、しかも精々1羽か2羽が成長するのが精一杯。でも、実際に個人がペットとしてひな鳥が成長して例があるので、これは野生捕獲ではなく、個人で飼育していたつがいが生んだ鳥だ、と言い張られては、本当は野生捕獲の代物でも見抜くのは極めて困難な話になります。更に害鳥として、かすみ網を使って捕まえられたのが、ペットとして売られることもある。銃で撃ち殺すよりマシと言い訳する者までいて、本当に手を焼いています」
「それは本当に大変ですね」
千代子の嘆きに、愛は寄り添った。
その一方で、愛は内心で考えた。
身分証明書等で確認していないが、千代子らは大統領警護官なのは間違いない筈だ。
それなのに、ここまで動物保護の現場等に詳しい人材とは予想外なことだ。
カバーのためのにわか勉強では、ここまでの知識は普通は持っていまい。
大統領直々にこういった人材を付けるように指示してくれたのかもしれない。
本当に有難いことだ。
だが、その一方で愛が横の美子の顔を見てみると。
「日本の場合は、二ホンオオカミとか、二ホンアシカ、二ホンカワウソ等の動物を動物園や水族館で人工繁殖させようとしていますが、繁殖に成功しても、それきりということが多発していますね。本当にどこも同じで、継続した繁殖には苦労しているようですね。更には密猟等の問題まであるとは。それにしても、美子の顔が暗くなる一方、野生のカロライナインコがいるだろう場所を早く目指しませんか」
「そうですね」
美子の顔が暗いのに気付いた愛は、そのように千代子に言い、千代子もそれに気づいた。
千代子も幾ら聡いとはいえ小学生の女の子に余り話して聞かせる内容では無かった、確かに美子の顔が暗くなっていると思って、部下の運転手を急かせて、カロライナインコの集団がいると予想される場所を目指した。
千代子はカロライナインコがいるのを改めて願った。
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