第63章―3
そんなことを望月千代子が考えていると、上里愛と上里美子の姿が千代子の視界内に入ってきた。
千代子は部下と共に自然な態度で姉妹の下に近寄って、声を掛けた。
「初めまして、上里愛と美子さんですね」
「はい。貴方は」
「貴方達の伯母さんから、貴方達の迎えを頼まれた望月千代子です。もう一人は運転手です」
「そうですか。よろしくお願いします」
愛と千代子は、傍からは自然な会話を交わしつつ、お互いの事を考えた。
愛は考えた。
恐らく彼女は大統領警護官の一人だろう。
運転手はその部下といったところか。
確かに私達を男性が警護しては、極めて目立つことになるだろうから妥当な人選か。
千代子も愛と美子のことを考えた。
本当に綺麗な母と娘だ。
更に言えば、母はそれこそあの織田美子を謀ったという噂がある才女でもある。
それなりに考えて対応する必要がありそうだ。
お互いにそんなことを瞬時に考えたが、愛も千代子も表には決して出さなかった。
「それでは車に乗ってください。荷物は入れる場所を指示します」
「分かりました」
傍から見る限りは違和感の全く無い会話を、愛と千代子は交わして、愛と美子の荷物は車に積まれ、4人全員が車に乗り込んだ。
尚、傍からは普通の乗用車に見えるが、防弾ガラス等が要所では使用されていて、それこそ対戦車ライフル銃には流石に耐えられないが、通常の狙撃銃ならば余程に当たり所が悪く無い限り、乗員が保護できる車になっている。
そして、美子はガラスの厚みとかから、それをすぐに察した。
「かなりの高級車を伯母は手配してくれたようですね。ライフルで狙撃されても大丈夫そう」
「ええ」
美子の言葉に千代子は即答しながら、それがすぐに分かるとは、と美子の聡さに驚くしかなかった。
そんなやり取りをした後、4人はワシントン近郊にある武田義信所有の別荘に無事に到着した。
尚、そこには武田和子や義信、武田信光大統領までもが揃っていた。
表向きは一時の休暇を大統領が取得して、ワシントン郊外で過ごすとのことだが、実際には身内の上里姉妹を歓迎するために武田家の面々が集っていた。
とはいえ、上里美子にしてみれば単なる親戚である。
(更に言えば、良くも悪くも美子の視点からすれば、身内は世界でも最上流の面々が揃っている。
伯母の織田美子は正二位の貴族院議員で、元尚侍にして元首相夫人になる。
叔母の九条敬子は五摂家で二位の家格を誇る九条家の正室である。
伯父の上里勝利はローマ帝国の大宰相になる)
そんなことから、武田家の面々と逢う際に美子は全く委縮しなかった。
むしろ、上里愛の方が恐縮した。
「まさか、信光様までおられるとは」
「いやいや、可愛い従妹らが来るとあっては、悦んで歓迎しないと」
愛と信光はそんなやり取りをした。
さて、そんなやり取りの横では、和子が美子の容姿に目を細めながら、話をしていた。
「リョコウバトの集団を見てみたいの」
「うん。最大の集団は10億羽以上もいると聞いていて、そんな集団を直に見たい」
「他に見たいものとかある」
「カロライナインコも、野生で見てみたい」
「おやおや、中々欲張りな姪っ子だね」
「実際問題として、リョコウバトやカロライナインコを見られますか」
美子と和子のやり取りを横で聞いた愛は和子に尋ねた。
「少しずつ難しくなっているが、まだまだ大丈夫だろう。でも、油断はできないね。自然保護区を設ける等して共に保護に努めているけど、減少が止まったとは言えないから」
裏の意味を込めながら、和子は愛に即答した。
「そうですか」
「望月千代子が案内してくれるから、今は見れると思うよ。美子ちゃん。楽しみにね」
「はい」
和子と美子のやり取りを聞き、愛は物思いに耽った。
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