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第62章―21

 そんなことが最終的には起こるのだが、モスクワ陥落以降のことを、(メタい話になるが)これ以降はマリナ・ムニシュフヴナの視点から基本的に描くことにする。


 マリナ・ムニシュフヴナが、浅井亮政らと共にモスクワに入城したのは9月下旬になった。

 というか、マリナ・ムニシュフヴナがモスクワに入城することには、浅井亮政以下の多くのローマ帝国の関係者が実は反対したのだ。

 それこそこの頃のモスクワは、発疹チフスに赤痢、腸チフス等の疫病の巣窟になっていたと言っても過言ではなく、マリナ・ムニシュフヴナがモスクワに入城するということは、そういった疫病にり患する危険を侵すことに他ならなかった。


 実際にモスクワ籠城戦において、ボリス・ゴドゥノフの娘であるクセニヤ・ゴドゥノヴァが発疹チフスにり患して薨去したという現実まである以上、ローマ帝国関係者が反対するのは当然だった。

 だが、だからこそマリナ・ムニシュフヴナにしてみれば、モスクワに自らが赴く必要があると考え、父のイェジ・ムニシェフに自らへの口添えまで頼んだ末にモスクワに入城することになった。


 その理由だが、それこそ嫉妬心からくるモノが大きかった。

 クセニヤ・ゴドゥノヴァが18歳の若さにも関わらず、高貴なる義務を果たすために発疹チフスにり患した将兵を見舞ったことから、自らも発疹チフスにり患して薨去した、本当に素晴らしい女性だという噂が流れているのが、マリナ・ムニシュフヴナの耳にまで届いたのだ。

 自分より6歳年上の女性のスタンドプレーではないか、と冷笑すれば良かったのかもしれないが、まだ12歳のマリナ・ムニシュフヴナは、そんな態度を執ること等はとてもできず、自分も危険にさらされる覚悟があると行動で示した次第だった。


(尚、この一件だが、余談ながら藤堂高虎が後で上里勝利に叱られる事態にまで発展した。

 上里勝利にしてみれば、マリナ・ムニシュフヴナの行動は単なる暴勇としか言えず、臣下たる者、当然に止めないといけない行動だったからである。

 藤堂高虎は色々と弁明したが、臣下ならば絶対に止めるべきだった、と上里勝利に難詰されてはどうにも自分でも否定できなかったのだ)


 そして、軍用自動車を使って浅井亮政らと共にモスクワに陸路で急きょ入城することに、マリナ・ムニシュフヴナはなったのだが。

 モスクワに実際に入城する前から徐々に濃くなる様々な悪臭、それこそ血や排泄物、遺体等がどうしても発して、更にそれらが入り混じった悪臭に、マリナ・ムニシュフヴナは卒倒しそうになりながら、懸命に気を確かにして耐え抜こうとすることになった。

 現実問題として、この悪臭は歴戦の兵士でさえ耐えかねる程度のモノだった。


 その悪臭を別の臭いで紛らわせようという訳では無いが、マリナ・ムニシュフヴナがモスクワに到着する直前の頃から、ローマ帝国内でかき集められ、日本や北米共和国から急きょ送り込まれたDDT等の殺虫剤の大量散布が、モスクワでは始まるようになっていた。

 そして、この殺虫剤の臭いにも、暫くの間、マリナ・ムニシュフヴナは苦しむことになった。


 とはいえ、マリナ・ムニシュフヴナにしても、将来の義父になる浅井亮政らからの説明を受けて、このような臭いがモスクワ市内で漂わざるを得なくなった事情は分かっている。

 更に言えば、自分が我が儘を言ったことから、モスクワに自分がいて、このような悪臭に苦しむことになったのも重々分かっている。


 そうしたことから、それこそ様々なハーブを組み合わせて作った気付けの匂い袋を常時携帯して、マリナ・ムニシュフヴナはモスクワで過ごすことになった。

 更には悪臭に耐えつつ、様々に見聞を深めていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] マリナ・ムニシュフヴナさんが変に萎縮せず、蛮勇を発揮しているところ。彼女らしいです。 クセニヤさんを心の中で永遠のライバル(少年ジャンプ流に言えば「友」)として進んで行けば、立派な皇太子妃…
[良い点]  なんかどんどん妙な方向に進化してる突撃マリナさん(12才)史実でもボトラッチじみた意地っ張りな面(初代偽ドミトリーが亡くなった後に現れた完全に別人の二代目偽ドミトリーと“生き別れの再会”…
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