第62章―20
さて、こういったモスクワ市民や兵に対する救援活動が行われる一方、ボリス・ゴドゥノフを始めとするモスクワに籠城していた貴族の当主や上級聖職者、更にはその家族への処断も並行して行われた。
(註、この当時のモスクワ大公国というか、欧州諸国においては基本的に上級聖職者は基本的に貴族階級出身者がほとんどと言っても過言ではありませんでした。
何故かと言えば、それこそ縁故主義がありましたし、上級聖職者になるには幼少期からの教育が必要不可欠で、生活に手一杯な庶民階級では子弟に幼少期からの教育等は極めて困難だったからです。
こうしたことから、上級聖職者のほとんどが貴族階級出身者で占められていたのです)
従前から言明されていた通り、エウドキヤはボリス・ゴドゥノフを筆頭とするモスクワに籠城していた貴族の当主や上級聖職者については、全員を処刑した上で、遺体を火葬にして川に流した。
(尚、ボリス・ゴドゥノフらは既に覚悟を固めていたこともあり、従容としてそれを受け入れた)
更にはモスクワに籠城していた貴族の家族に対しても、エウドキヤは同様の刑に処そうとしたのだが、これには浅井亮政や藤堂高虎、更には加藤清正や福島正則らまでもが反対の声を挙げた。
「ボリス・ゴドゥノフ以下の貴族の当主や上級聖職者のほとんどが、モスクワに籠城していた自分の身内、家族は自分に従っただけで、ローマ帝国軍に武器を向けていないと宣誓供述している。それが嘘だとして処刑するというのか」
「そこまでは言いませんが、実際にモスクワに籠城していて、ローマ帝国軍に抵抗の意思を示していたのは事実ではありませんか」
「そこまで言い出したら、モスクワに籠城していた庶民や兵までも殺すことになるぞ」
浅井亮政はそこまで言って、懸命に妻のエウドキヤの説得に努めた。
更に浅井亮政には、藤堂高虎や加藤清正や福島正則までもが加担した。
「皇配陛下は、モスクワを速やかに開城させて、疫病に苦しんでいる住民を少しでも早く救おうと考えて、あのような条件での開城を受け入れられたのです。その真率な想いから出された条件を破っては、民が帝国政府を信用しなくなる怖れがあります」
「もう十二分に血が流されています。これ以上に怖れられる女帝であられる必要はありません」
等の弁舌が振るわれた。
エウドキヤにしても、そこまで夫や部下が反対の声を挙げては、全員処刑の上での火葬は断念せざるを得なかった。
とはいえ、一つの条件だけは絶対に譲らなかった。
「それならば、貴族全員殺す必要はありませんが、リューリク朝の男系男子は、将来の禍根を完全に断つために何らかの難癖をつけて根絶やしにします。女系は目を瞑りましょう」
これにも浅井亮政らは難色を示したが、上里勝利が消極的支持を与えたことから、この処刑は断行されることになった。
さて、何故にエウドキヤがそう主張し、上里勝利がそれに消極的支持を与えたかだが。
エウドキヤやその子孫のリューリク朝の継承者としての地位は、結局はエウドキヤがイヴァン雷帝の娘であるという女系に基づくものであり、男系男子こそがリューリク朝の正統な継承者だという一部の貴族の主張からして、立場的に弱い代物だという事情があった。
だからこそ、エウドキヤとしては自らとその子孫の継承者としての地位を確立させるために、リューリク朝の男系男子の根絶やしを主張し、上里勝利が消極的支持を与えたのだ。
そのためにリューリク朝の男系男子であるヴァシーリー・シュイスキーは、モスクワ川の流れを活用してのモスクワ脱出に一時は成功していたが、最終的にはローマ帝国軍の虜囚になって、息子や兄弟らと共に処刑の憂き目に遭った。
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尚、バラ戦争後のヘンリー7世の振る舞い等からいっても、この頃の欧州全般では王位、帝位継承については女系よりも男系優先という意識が強かったようです。
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