第62章―14
「やっとモスクワにたどり着いたか」
加藤清正は7月半ば、モスクワ攻撃を前に慨嘆していた。
「かつて亡くなられた磯野員昌殿は、約1万の騎兵でモスクワを落としたと聞いておりますが」
と福島正則は、そこまで言った後で慨嘆ながら言葉を継いだ。
「あのときとはとても比較にならない。よくもまあ、と考えられる防衛体制をモスクワ大公国側も築いているようですな」
「確かにそうだな」
福島正則らしからぬ丁寧な言葉遣いだ、と要らぬことまでが頭の中で過ぎりつつ、加藤清正は目の前の光景を望見しながら呟いた。
結果的にだが、モスクワにたどり着いて攻撃を行える兵力は実質2個師団にまで減少している。
どうのこうの言っても、ここまでの進撃において後方警備の部隊を遺さざるを得なかった。
勿論、それなり以上の自動車化等で機動力を高めてはいるが、約500キロも進撃するとなると後方警備の任務に充てる部隊もそれなり以上に膨れ上がらざるを得なかったのだ。
そのために陸上の前線兵力は約3万程にまで、モスクワ攻撃に充てられる兵力は減少している。
そして、ここまでの戦訓をモスクワ大公国軍も色々と得てはいるようで、スモレンスク攻防戦の頃よりは遥かにマシな防衛体制をモスクワでは築いているようだ。
更に航空偵察を駆使する限り、モスクワ防衛に当たっている兵力の総数は自分達より多い公算が大きいともみられている。
それこそ、そのほとんどが貴族なのだろうが、防衛軍の一部は女性からなっていて、その女性までもが銃を持っているのだ。
参謀将校達が航空偵察の結果を調べて議論した限りだが、最低でも4万、恐らくは5万がモスクワに籠城しているという結論を上申しているという現実がある。
「モスクワを強攻しては、こちらもそれなり以上の損害を被るだろう。モスクワは遠巻きに攻囲するのが至当だろうな」
「確かにそうだろうな」
加藤清正の言葉に福島正則と言えど、同意の言葉を言うしかなかった。
実際問題として、砲爆撃を能う限り集中することで、モスクワを強攻して落とすのが不可能とは言えないが、それによって多大な損害を自分達が被る公算が高かった。
それよりも遠巻きに攻囲して兵糧攻めを行う方が、自軍の損害を迎えられるだろう。
だが、これは別の問題を生み出す。
「我が軍の補給は大丈夫だろうか。兵糧攻めは良いが、自分達が兵糧攻めにあってはかなわん」
福島正則が懸念の声を挙げた。
「最悪の場合、爆撃機を活用しての補給物資の空輸も考えるとのことだ。モスクワ大公国が軍用機を持っていない以上、この空輸を阻止することは不可能だろう。だから、大丈夫と考えるが」
紙の上では大丈夫なようだが、こういうことは実際にやってみないと正確なことが分からない。
だから、加藤清正も不安を覚えつつ、こういわざるを得なかった。
「ふむ。取り敢えずは遠巻きに攻囲してモスクワへの兵糧攻めを行うとするか。勿論、その間にもモスクワへの空襲を繰り返すこと等で、モスクワを防衛するモスクワ大公国軍の戦力を少しでも削っていくことにはなるが」
「取り敢えずは、それが至当なところだろうな」
福島正則の言葉に加藤清正も同意の言葉を発し、ローマ帝国軍はモスクワに対する攻囲を徐々に始めることになった。
これに対して、モスクワ大公国軍も騎兵等を投入して攻囲を妨害しようとしたが、どうのこうの言っても、ローマ帝国軍に対して火力が劣位にあると言う現実があっては。
ローマ帝国軍へのモスクワ大公国軍の攻撃が、火力で劣位にあることから失敗することが多発するのは止むを得ない事としか、言いようが無かった。
そうしたことから、モスクワ大公国軍はモスクワ籠城で抗戦することになった。
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