第62章―8
浅井亮政とマリナ・ムニシュフヴナが、そんな会話を交わした翌朝、日の出と共にローマ帝国軍のスモレンスクに対する攻撃は始まった。
ローマ帝国軍の将兵にしてみれば定番と言えば定番だったが、まずは大型爆撃機による水平爆撃がスモレンスクを巡る外郭陣地に加えられた。
「流石に1トン爆弾の威力は凄いな」
「そんな大きな爆弾が」
「中型の双発爆撃機1機に1発しか積めていませんがね」
「そんな大きな爆弾を降らせることができるのですか」
「そんなことで驚いていては、日本や北米ではやっていけませんよ」
「そんなに違うのですか」
「日本や北米は最大10トン爆弾を搭載可能な大型の四発爆撃機を保有していますからね」
「えっ」
浅井亮政の言葉にマリナは絶句した。
マリナとて、日本(皇軍)がもたらした度量衡の単位のメートル法を学んでいるので、1トンがどれ程の重さなのかを察することができる。
だから、1トン爆弾を超巨大爆弾とマリナは考えたのだが、浅井亮政にしてみれば、超巨大爆弾とは言えないと即答されてしまったのだ。
マリナにしてみればとても考えられない話だった。
マリナが驚愕の余りに沈黙している内に、最初の爆撃は終わった。
スモレンスクを防衛するために築かれた城壁は、全てを合わせれば約100トンに達する爆撃で、ここかしこで崩れる有様になっている。
とはいえ、これだけで攻撃するのは不十分と考えられたことから、約200機に達する戦闘爆撃機が攻撃効果が不十分な箇所とされたところに対する銃爆撃を加えた。
1機の戦闘爆撃機には250キロ爆弾か、60キロ爆弾4発か、30キロのロケット弾8発が搭載されている。
そして、搭載された兵器に応じた攻撃目標がそれぞれに指示されて、更なる効果を挙げた。
マリナは黙ってそれを見守るしかなかった。
一部の偵察機を除いて、スモレンスク上空を舞う航空機の姿が消えたのとほぼ同時に、ローマ帝国軍歩兵のスモレンスクへの攻撃が始まった。
とはいえ、実際には最初の攻撃は威力偵察と言ったところで、一部の部隊が反撃に遭った段階で攻撃が中断されて今度は野砲や重砲による念入りな砲撃が行われ、それによって反撃を行った拠点が沈黙したのを確認した上で、改めて攻撃が行われることが多発した。
こんな風に重厚な攻撃が行われては、モスクワ大公国軍の抵抗も極めて困難だった。
この時のマリナは知らなかったが、後で教えられたところによると、モスクワ大公国軍はスモレンスクに約3万の兵を集めており、1月は抗戦可能であると考えていたらしい。
実際、ローマ帝国軍がスモレンスク攻撃に実際に投入した前線兵力は10万に満たなかったとのことで、ほぼ同じ程度の質の兵がぶつかったと考えれば、更にスモレンスクが城壁等で防護されていたことを考えれば、モスクワ大公国軍の考えは当然と言える代物だった。
だが、ローマ帝国軍とモスクワ大公国軍の質は明らかに違い過ぎた。
こうしたことから、ローマ帝国軍が攻撃を開始したその日の昼前には、スモレンスク市街にローマ帝国軍が突入して、更にはその日の夕方までにスモレンスク市街がほぼ制圧される事態が起きた。
(市街戦ならば、それなりに戦えるとモスクワ大公国軍は考えていたが、ボルトアクション式小銃と軽機関銃の組み合わせに、槍やマスケット銃の組み合わせが主力で抗戦するのは極めて困難だった)
「本当にスモレンスクに入城できたでしょう」
「父上の言われる通りでした」
浅井亮政はマリナに平然と言い、マリナは呆然としたままで、それだけしか言えなかった。
本当に1日でスモレンスクが陥落するとは。
私は信じたくないが、ローマ帝国軍がこれほど強いとは思わなかったことだ。
最後の辺りの描写を補足すると、モスクワ大公国軍と言えど、流石にこの頃にはライフル銃等を密輸入等で徐々に装備しつつありますが、まだまだ少数に止まっていました。
更にローマ帝国軍の侵攻に備えて、軍を急速に拡大したため、マスケット銃すら不足していました。
こうした状況から、槍を装備した部隊まで前線に投入されていたのです。
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