第62章―7
そんな想いをそれぞれがしていたが、1600年6月初め、主にキエフからスモレンスクを目指したローマ帝国軍は順調に進撃を果たして、スモレンスク攻撃に取り掛かることになった。
その様子を後方から望見することになった多くのポーランド=リトアニア共和国の面々は、ウクライナでのローマ帝国軍との戦闘を経験したことが無い者が大半を占めていたので、ローマ帝国軍のスモレンスク攻撃の方法に驚愕することになった。
尚、その中には未来の皇后陛下もいた。
「凄いです。あんな機械、で良いのですよね。単なる人が造った機械とはとても見えないのですが。本当は悪魔が動かしているとか、魔法で造られたとか、と言われても私は信じます」
「ローマ帝国は敬虔な東方正教徒である皇帝が統治する国です。そんな国に悪魔がはびこっていると言われるのですか」
「本当にすみません。でも、そうとしか思えないのです」
「正直な娘さんだ」
「父上とお呼びしてもよろしいですか。まだ早いですか」
「まだ早いと言えば早いですが、別に構いませんよ」
「ありがとうございます」
浅井亮政とマリナ・ムニシュフヴナは会話を交わした。
マリナは目の前に広がる光景に脅威しか覚えなかった。
何しろスモレンスクを攻撃しようと、複数の偵察機が現在もスモレンスク上空を飛行している一方、スモレンスクを攻囲するようにローマ帝国軍が全面展開を続けている。
最新式の小銃程度は、自分も父を始めとする大人から見せられたことがあるので驚く代物ではないのだが、大砲にしても見たことのない大きさのモノが自動車と呼ばれる機械にけん引されている。
更には戦車という大砲を積んで、装甲に囲まれた自動車があるのだ。
それも一つや二つではない、何十、いや百を超える数が揃っている。
よくこんな軍隊を保有する相手とウクライナの大地で戦えたものだ、と言う想いさえ自分はする。
もっともあの頃、5年前とは様々な改善がローマ帝国軍では行われているので、単純に考えるべきではないかもしれないが、それでも飛行機や戦車はその頃からローマ帝国軍は保有していたのだ。
それに対して、自分の祖国のポーランド=リトアニア共和国軍はよくも善戦を果たせたものだ。
マリナは自らの祖国を誇りに思うと共に、ローマ帝国の国力の強大さに圧倒される想いがした。
だが、マリナの驚愕は、これだけでは終わらなかった。
浅井亮政は半ば独り言を言った。
「これでも実はローマ帝国は、日本どころか北米共和国にも劣る軍隊なのですよ。日本や北米共和国は、ローマ帝国よりも質的に優れた軍隊を保有しています」
「そうなのですか」
マリナはそれ以上の事がどうにも言えなかった。
眼前の光景だけでも圧倒されるのに、それよりも質的に優れた軍隊があるのだろうか。
「ええ。ローマ帝国も協力、努力はしていますが、日本や北米共和国は地球の裏側でもすぐに攻撃できるような兵器を真剣に開発しようとしていて、実際に成功しつつあるとか」
「地球の裏側」
浅井亮政の言葉が、マリナには理解できなかった。
いや理解を頭が拒絶した。
この世界が球形なのは教えられたが、そうはいっても余りにも広大な世界の筈だ。
それなのに地球の裏側がすぐに攻撃できるようになりつつある等、本当に信じられない。
「更には大威力の兵器も開発されつつあるとか。本当に黙示録の世界が近々起きる気さえします」
「それは怖ろしいです」
浅井亮政の言葉に対し、マリナはそれ以上の言葉がどうにも出なかった。
「それでは明日にはスモレンスクに入城できるように攻撃します。それを見ていて下さい」
「分かりました」
浅井亮政はそういってマリナへの言葉を終えた。
マリナは恐怖しか覚えなかった。
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