第62章―5
そんな会話をほぼ同じ頃に石田三成と羽柴秀頼がしていることを知らぬまま、目の前の福島正則を無視して加藤清正と加藤嘉明は会話を続けた。
「ともかくモスクワを直に目指す部隊は、基本は陸軍5個師団に海兵1個師団か」
「それに各種独立部隊等も加わるから、総兵力としては約15万人。まずは充分といえるだろう。モスクワ大公国の現状から、広範囲にわたって住民を味方とする遊撃戦を展開できるとは考えにくい。むしろ、焦土作戦に近い事態が起きることを想定して、補給の心配を考えるべきだな。だからこそ、スモレンスクへまずは進撃して、旧来からある街道を使ってモスクワを目指すことになる訳だが」
「福島と儂が陸軍2個師団ずつを率いて、双頭の龍のようにモスクワを目指し、浅井殿が残りの1個師団と海兵師団を従えて後方を固めて進撃を行うか。ポーランド=リトアニア共和国がどこまで後方支援をしてくれるかがカギになりそうだな」
「一応、警戒の為にエウドキヤ陛下がキエフまでは親征されるらしい。言うまでも無いことかもしれないが、1個近衛師団を従えられる。それにいざとなれば、ウクライナ地域から民兵3万を動員することも可能なそうだから、ポーランド=リトアニア共和国にしても、余程の覚悟が無いといきなりの寝返り、ローマ帝国への敵対行為等は無いと考えるがな」
「確かにそうだな」
加藤清正と加藤嘉明の会話は続いた。
その二人の会話を聞いている内に気を取り直したようで、福島正則は二人の会話に口を挟んだ。
「確かにその通りだが、藤堂高虎はその辺りをどう考えているのか、気になるな。文官ボケを起こしていなければ良いのだが」
「そこは浅井亮政陛下がいるのだ。それとも浅井亮政陛下の判断を疑われるのか」
加藤嘉明が阿吽の呼吸でそう言うと、福島正則も黙らざるを得ない。
浅井亮政は女帝エウドキヤの皇配であり、ウクライナの戦場で十二分に優秀な指揮官であることを示している人材でもある。
そう言った背景があっては、福島正則といえども批判を控えざるを得ない。
「まあ良い。儂はモスクワをひたすら目指すことにする。儂は軍人だ。上の命令に従うだけだ」
本音は別なのだろうが、福島正則はそう言って矛を収めた。
何とか気持ちが収まったようだな、加藤清正と加藤嘉明は目で会話をして現状確認を終えた。
そんな会話が展開されていたのと相前後して、浅井亮政と藤堂高虎はモスクワ大公国への侵攻作戦についての最終確認をしていた。
「モスクワへ進撃する部隊への補給物資等の確保は本当に大丈夫なのか」
「ご安心を。ポーランド=リトアニア共和国内から、一部は武器等とのバーター取引ということで食糧の確保については話を付けております。戦車や補給物資を運ぶトラックの燃料については、敢えて日本を介してオスマン帝国から供給を受けるということまでしました。そのためにクリミア・ハン国とオスマン帝国の関係にヒビが入っているとか。基本かもしれませぬが、味方と利益は分け合い、敵は分断する方策は順調に進んでおります」
浅井亮政の問いかけに対して、藤堂高虎は即答していた。
「ふむ。ポーランド=リトアニア共和国が十分な食糧を提供できなければどうするのだ」
「フランスや北米共和国が売り込みを図っております。というか、実はポーランド=リトアニア共和国からはやや高めで購入しております。そうしたことから、財政的にはフランスや北米共和国から買い付けた方が良いのが現実です」
「成程。そういう裏がある訳か」
「御意」
二人の会話は更に進んだ。
ポーランド=リトアニア共和国にしてみれば、積極的に食糧を売り込まねば損になるのが自明とあっては売らざるを得ない。
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