第62章―4
更に言えば、この方面に投入されているローマ帝国軍の人材も優秀な人材が揃っていた。
石田三成は文官として様々な後方支援に長けた人材だった。
羽柴秀頼も、本来から言えば民間人だが、実父の羽柴秀吉や義父の伊奈忠次の指導を受けて育ったことから、水利問題が本来の職務とは言え、軍事面に関してそれなりの見識を有していた。
その二人の部下になる島左近や浅野幸長、大谷吉継といった面々に至っては、福島正則は決して認めようとしないが、加藤清正や加藤嘉明といった面々からすれば、
「本音では認めたくないが、優秀な軍人として自分の同僚や部下に欲しい人材だ」
と言わせる人材だった。
こうした優秀な人材が上層部にいる以上、ローマ帝国の対クリミア・ハン国との国境線は徐々に東に進む事態が起きていた。
何しろモスクワ大公国から逃亡して来た元農奴というそれなりの数の人間を生存させる必要がある。
更に言えば、そういった人間のほとんどが東方正教徒だった。
こうしたことからすれば、自称に過ぎないが「全てのキリスト教徒の守護者」であるローマ皇帝が治めているローマ帝国としては、こういった元農奴の庇護の為に積極的に動かざるを得ない。
そして、その手段となるとクリミア・ハン国と戦って、その土地を奪って、その土地を元農奴が耕す農地にしていくのが最善の手段だった。
又、これまでに多くのウクライナ人がクリミア・ハン国軍の掠奪に苦しんできた歴史的経緯もある。
そのために、クリミア・ハン国との戦争は正義であると多くのウクライナ人が考え、それにローマ帝国政府の各方面も煽られて、そのように動く事態が起きていたのだ。
もっともこの事態は、本音としては石田三成や羽柴秀頼らにしてみれば本意ではないものだった。
「理屈は分かるが、本来的には地盤を固めることに専心したいものだ」
「全くです。懸命に逃亡してきた元農奴を集めては、様々な支援を行って農地を開拓させて、新たな開拓村等を造ってということはしていますが、そうはいっても本当に負担が大きい」
陰では石田三成と羽柴秀頼は愚痴り合っていた。
「島左近も言っている。東方に侵出した方が西ウクライナの安全を図れるのは事実ですが、それによって戦線を拡大させては、却って様々な負担が増えることになりますと」
「本当にそれこそ単に利を食らわせることだけで、元農奴をローマ帝国に引き付けているのが現実です。私としても、それなりに単なる利以外のことがあるのを、元農奴に教えて、ローマ帝国に対する忠誠心を高めたいと考えます。何しろ現状では、水路や道路整備でさえも後々で自らの利益にもなることが分からずに働いている者が多い。とはいえ戦争に追われている現状では、そんな余裕はない」
石田三成と羽柴秀頼は溜息が出るような会話を交わした。
「こうしたことから、ローマ帝国軍の本隊はキエフからスモレンスクへと向かい、スモレンスクを落とした後でモスクワを目指すことになった。何だかんだ言っても、ワルシャワからスモレンスクへ、更にはモスクワへと結ぶ街道は歴史的に存在し続けていたからな。補給の観点からも妥当だ」
「確かにそうです。現実問題として、ドン河とヴォルガ河が結ばれていれば、かなり話が違ってきますが、キエフからモスクワを目指すのに有効に活用できる内陸水路は無いといっても過言ではない以上、補給の観点からそのようなことになるのも当然です」
二人の会話は続いた。
「こういった状況にモスクワを目指すローマ帝国軍の総指揮官浅井亮政殿は熟知していると考えるが、どうにも一抹の不安を覚えてならぬな」
「確かに一抹の不安はありますが、進むしかないでしょう」
二人は溜息を吐いた。
見える人には見える、進めば進む程に地獄へと進むしかない路なのに進むしかない現実が起きていました。
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