第62章―1 モスクワへの進撃
新章の始まりになります。
取り敢えずは、基本的に加藤清正と福島正則、加藤嘉明の3人の会話で1600年春現在の状況説明等を行います。
「色々とやってみたが、結局のところは6個師団が精一杯か」
「そういうことになる」
「更に言えば、浅井亮政殿の傍に藤堂高虎が近侍して、事実上の参謀長役を務めるか」
「何か気に食わないのか」
「大ありだ。仮にも藤堂は今は文官の身だ。何でそんな奴が参謀長になるのだ」
加藤清正と福島正則は、そんなやり取りを1600年5月初めにしていた。
「いい加減にしろ。藤堂高虎殿が有能な軍人であったのを否定するのか」
「否定はせん。だがな、文官が軍事に口を出すべきではない、というのだ」
加藤清正は福島正則をたしなめたが、福島正則は更に口を曲げて言った。
取り敢えずは理を説くか、それでも納得しないなら、強引に口を封じよう。
そう考えて加藤清正は、福島正則の説得を始めた。
「藤堂高虎殿が戦場を知っていて戦傷を負い、文官に転職せざるを得なかったのは知っているな。更に言えば、その戦場がレヴァント地方で、それこそ宗教等がモザイク状態にあって、それこそ一部勢力との妥協が成立すれば、他の勢力を怒らせることが多発して、そういった勢力間の調整に藤堂高虎殿が懸命に対応されたのは。そういった現場に、自分が赴いたとして、藤堂高虎殿のように対応できるのか。俺では対応できぬぞ」
「そこまで言われると、自分も対応できぬ」
加藤清正に一喝されては、さしもの福島正則も反論できない。
そして、二人のやり取りを傍で聞いていた加藤嘉明も口を挟んできた。
「福島殿の気持ちもよくわかる」
「分かってくれるのか」
てっきり加藤嘉明が自分に味方してくれると考えた福島正則は、喜びを秘めた声を上げたが、続く言葉に事実上は打ちひしがれることになった。
「だがな。前線での戦いが快調に進もうとも、後方の安全が確保されないと意味がない。そうした観点からすれば、藤堂高虎殿の能力は、本当に得難いモノだと考えるぞ」
「うっ」
実際に福島正則にしても、加藤清正や加藤嘉明の言葉に道理があるのは、十重二十重に分かってはいるのだ。
だが、猪突猛進こそが最善と考える自分、福島正則としては、その言葉を感情的に認められない。
更に言えば、レヴァント地方がある程度は落ち着いた後は、バルカン半島鎮定作戦に文官として従事したが、その際に元軍人としても藤堂高虎が活躍したのが、福島正則としては感情的に気に食わないことになっている。
本当にぬえとしか言いようが無い人材だ、文官ならば軍事に口を出すな、そんなことまで福島正則は考えていて、そのように周囲に言っているのだが。
現実には無二の親友と言える加藤清正や、自分としてはそれなりに評価している加藤嘉明でさえ、自分に反対するのが現実で、それがますます福島正則を意固地にさせる事態を引き起こしていた。
「ともかく儂は藤堂高虎が気に食わぬのだ」
「「ああ、もう分かった」」
加藤清正どころか、加藤嘉明にしても福島正則とはそれなりに付き合ってきた身だ。
それ故にある意味では匙を投げた言葉を投げることになり、福島正則は横を向いた。
そして、福島正則を無視して、加藤清正と加藤嘉明は話を始めた。
「ところでモスクワを目指すとして、どのように我々は進撃することになるのだろう」
「それについては色々な議論が交わされたようだが、ポーランド=リトアニア共和国に道を基本的に借りると言う方向になったようだ。具体的にはキエフを起点にスモレンスクへと軍の主力を進撃させ、その上でスモレンスクからモスクワを目指す」
加藤嘉明の問いに、加藤清正は明確に答えた。
「悪くはない、というか妥当な進撃路だと自分も考えるが、どうにも海軍軍人の自分としては落ち着かない進撃路になりそうだな」
「気持ちは分かる」
二人は笑った。
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