第61章―14
少し幕間めいた話になります。
流石にローマ帝国の諜報部にしても、偽ドミトリー皇子擁立云々の陰謀については当初は怪しい噂としか把握されていませんでした。
しかし、その噂から猛烈な圧力をローマ帝国政府上層部はローマ教皇庁に掛けることになり、結果的に詳細を掴むことになりました。
今回の話はその裏話、幕間話です。
さて、この際に何故にローマ帝国がこの偽ドミトリー皇子擁立の陰謀の詳細を掴めたのか、誰が寝返って詳細を通報していたのか、というのを明かすと実はイエズス会が寝返っていたのだ。
(既述だが)イエズス会の一部がこの陰謀に当初の頃から加担してはいたが、実際問題として最上層部は与り知らぬことだった。
そういった状況の中で、ローマ帝国政府上層部にポーランド=リトアニア共和国内の怪しい動きが耳に入るようになり、更にはイエズス会の一部も関与しているやも、という噂が届いた。
そうした情報を自分達が集められる限り集めて整理した後で、藤堂高虎と森成利は上里勝利にこの情報を整理した上で伝えた。
これを聞いた上里勝利だが、
「ローマ教皇庁を介してイエズス会を揺さぶろう。この後は君達は知らなくて良い」
そう二人に伝えて女帝エウドキヤに秘密裏に上奏して了解を得た上で、ローマ教皇庁に対して猛烈な圧力、恫喝を加えたのだ。
その具体的な内容だが。
「イエズス会の一部がモスクワ大公国の継承問題で動いているとか。言うまでもないことかもしれませぬが、我が女帝はモスクワ大公国の継承権を持ってモスクワ大公に即位しようとしています。それなのにモスクワ大公の継承問題で、カトリック教会の一部が動いているということは。ローマ教皇の選定について皇帝が口出ししても構わない、と言うも同然ですな。教会の事は教会の事、世俗の事は世俗の事と帝国は考えていますが、教会が世俗の事に積極的に関わろうとするなら、こちらも教会の事に積極的に関わらせてもらいます。具体的にはローマ教皇の任命権を皇帝が握ることにしたい」
とローマ教皇庁を上里勝利は恫喝したのだ。
この恫喝にローマ教皇庁は戦慄した。
現実問題として、ローマ教皇庁に今や権威はあっても力は無いに等しい。
そうした中で本格的にローマ帝国皇帝がローマ教皇の任命権を握ると言い出しては。
教皇庁が断固拒絶の態度を示しても、それに対して具体的な攻撃をせずとも、ローマ教皇庁への水や食料の提供を完全に断つ態度を帝国が取れば、3日も経てば飢渇でローマ教皇庁は全面降伏を余儀なくされるだろう。
更に言えば、その発端が発端だ、カトリック信徒がローマ教皇庁にどこまで味方してくれるのか、極めて怪しいというか、自信が持てない話になる。
こうしたことから、ローマ教皇庁は、イエズス会に猛烈な圧力を掛けることになった。
速やかにローマ帝国に謝罪して、この陰謀の詳細をローマ帝国に明かすように。
もし、それを拒むというのならば、イエズス会を解散させる。
イエズス会上層部にしても、そこまでのことを一部の会員がやらかしていたとは寝耳に水であり、その内容を聞けば聞く程、ローマ帝国が本気で激怒していることが分かり、ローマ教皇の任命権をローマ帝国皇帝が握りかねない事態、裏返せばローマ教皇庁の独立が失われる事態が自らの会員の所業のために迫っているのを痛感することになった。
こうしたことから、イエズス会はこの陰謀に加担していた一部の会員から、この陰謀に関する詳細な情報の提供を受けて、ローマ教皇庁に詫びを入れてその情報を提供することになった。
更にローマ教皇庁はローマ帝国上層部に、その情報を秘密裏に流して、この件の手打ちを行うという結末がもたらされることになったのだ。
(尚、イエズス会でこの陰謀に加担した一部の会員には、それなりの運命が待っていた)
勿論、本音としては上里勝利は教会の事に介入したくはない。
だが、向こうがやるならば、こちらは徹底的に叩くぞという態度を示しておかないと後々で厄介なことになるという考えから、上里勝利は行って実際に効果も上がったのだ。
偽ドミトリー皇子擁立は、実際に陰謀を巡らせたイエズス会の面々等にしてみれば、単なるモスクワ大公国の継承問題と考えていたのですが。
ローマ帝国側にしてみれば、それこそ女帝エウドキヤの正統性、継承権の問題に関わる以上、偽ドミトリー皇子擁立を軽視すること等はとてもできないのです。
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