第61章―13
そんな上里勝利と藤堂高虎の会話が交わされたこと等とは表面上は全く無関係で、偽ドミトリー皇子擁立の陰謀は密やかにポーランド=リトアニア共和国内部では葬られることになった。
偽ドミトリー皇子になる予定だったステファン・バートリの私生児は、最終的には偽名でイエズス会が引き取って、カトリック教会の修道士として生きていくことになった。
(更に言えば、信仰の世界でそれなりに業績を挙げて、ステファン・バートリの私生児は、最後にはカトリック教会の大司教まで昇りつめて亡くなるのだが、本題からは外れるので、この後の彼の生涯、運命についてはここまでとする)
この偽ドミトリー皇子擁立に積極的に加担していたいわゆる強硬派に属するオストログスキ家やヴィシニョヴィエツキ家等では、イェジ・ムニシェフの裏切りについて、
「忘恩の輩」
「売国奴」
等々の非難を陰で行うことになったが、その一方でイェジ・ムニシェフがローマ帝国がこの陰謀の詳細を掴んでいたようだ、との情報に対して背筋を凍らせることになった。
イェジ・ムニシェフと同様、どこからこれだけの情報が漏れていたのか、実は身内に内通者がいたのではないか、という疑心暗鬼に強硬派の面々の多くがとらわれたのだ。
更に言えば、参加者の多くがお互いを信じられない状況で、こういった陰謀を更に進められる訳が無いのも事実だった。
こうしたことから、この偽ドミトリー皇子擁立という陰謀に加担していたポーランド=リトアニア共和国の貴族や聖職者達、いわゆる強硬派の面々のほとんどが、偽ドミトリー皇子が修道士になって姿を消し、この件は無かったことにするというイェジ・ムニシェフが提案した最終的解決案に最後には同意することになった。
(最もあくまでもこんな解決は受け入れられないと叫んだ面々が全く居なかったという訳ではない。
だが、そういった面々は、それこそ自らの保身を図るかつての同志達によって密やかに処分されるという運命を全員が辿ることになった)
そして、この陰謀の最終的解決までの成り行きについての密やかな報告を、イェジ・ムニシェフ等を介して受け取ったローマ帝国側だが。
「取り敢えずは帝国の手が全く汚れることが無くて良かったです」
「修道士にして密やかに偽者を生き延びさせるのはどうか、と考えますが」
「処刑にしても、暗殺にしても遺体が出ます。その後始末は意外と困るものです。それに命まで求めては流石に偽者に同情する者が増えるでしょうから」
「確かに言われてみれば、その通りですな」
上里勝利と藤堂高虎は、そうやり取りをした。
「ああ、そうそう、エウドキヤ女帝は、息子の嫁にマリナ・ムニシュフヴナを迎えて、将来の皇后にすることに同意しました」
「それは良かったです」
「勿論、東方正教徒にマリナ・ムニシュフヴナが改宗してなるのが大前提ですが」
「イェジ・ムニシェフは娘のマリナは改宗を快諾したと言ってきています」
「さて、どちらが言い出したのか。マリナが10歳を過ぎたばかりなので気になりますね」
「気になる」
二人は更にやり取りをした。
「父が娘を無理に改宗させたのか。それとも娘から改宗に積極的に応じたのか。もし、娘から改宗に積極的に応じたのならば警戒すべきでしょう」
「それは何故に」
「それこそ野心の為ならば、悦んで改宗するような女性を警戒しない訳には行かないでしょう」
「確かに仰る通りです」
「私が気の強い野心に溢れた姉妹持ちの身なので、尚更に気になりますね」
「それは私には言いにくいことを言われますね」
上里勝利と藤堂高虎のやり取りは続いた。
「ともかく正式に婚約の申し入れをしましょう」
「仰せの儘に」
二人はそう取り決めをした。
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