第61章―4
「石田三成らの言うのも、それなりの道理があります。我がローマ帝国の国内事情は、本来から言えば戦争をする等には極めて厳しいのが現実です。今は国内基盤を固めるべきやもしれませぬ」
上里勝利は、更にエウドキヤを諫めた。
「大宰相らが言うことにも、それなり以上の道理があるが。モスクワ大公位が簒奪者(ボリス・ゴドゥノフのこと)に奪われたままでよいというのか」
「いえ、そのようには必ずしも申しませぬ。それなりの準備を整えた上で、モスクワ大公に御身が即位できるように戦争をすべきかと」
「どのような準備を整えると言うのか」
エウドキヤと上里勝利は、更なる論議を進めた。
「されば」
上里勝利は、他の者と話し合った上で立案した自らの考える方策を順次述べた。
以下はその要約になる。
まずはモスクワ大公国の国際的孤立を進めると共に、我が国の対外関係を好転させる。
具体的にはポーランド=リトアニア共和国と我が国の関係改善を最優先とする。
それにはカトリック教会、教皇庁を動かして、ポーランド=リトアニア共和国の聖職者の間に親ローマ帝国の世論を生ませ、更に貴族や民衆にその世論を広めていく。
そして、スウェーデン等とも反モスクワ大公国の一点共闘を進める。
これによって、我が国は二正面作戦をできる限り避けると共に、モスクワ大公国を外交的に孤立させて、その戦力を分散させる方策を講じる。
「ふむ。悪くはないが、ポーランド=リトアニア共和国とはウクライナを巡って戦争を行った仲、その程度で関係改善が成るとは考えにくいが」
上里勝利の説明を一通り聞き終えた後、エウドキヤは疑問を呈した。
それに対して、上里勝利は答えを口ごもった。
「言いづらい話なのか」
エウドキヤは、信任篤い大宰相が答えを口ごもるとは珍しい、と考えて軽く尋ねたが。
上里勝利は更に逡巡する態度を示した(尚、実は擬態だった。上里勝利としては、これしかないと考えてはいたが、すぐに言っては却ってエウドキヤが癇癪を爆発させると考えたのだ)
「正直に言えばよい。朕は怒り、叱り飛ばすかもしれぬが、それ以上のことはせぬと約束しよう」
「されば」
エウドキヤの更なる言葉を受けて、上里勝利はそこで言葉を切った後で言った。
「皇太子殿下とポーランド=リトアニア共和国の大貴族の娘との縁談を進めては如何かと」
「何。敵国といえるポーランド=リトアニア共和国の大貴族の娘と、我が帝国の皇太子を結婚させるべきだと。何を言うのか」
エウドキヤは上里勝利の言葉に絶句した後、怒って、叱り飛ばしだした。
(暫くの間、実際には様々な暴言が続いていたのだが)エウドキヤは、怒っている内に怒ること自体に疲れてしまい、言葉が途切れた。
そして、それを見た上で上里勝利は言葉を発した。
「御怒りはごもっとも。しかし、古来、敵対してきた国の仲を修復するのに、政略結婚が行われてきたのが現実ではありませぬか。政略結婚を行えば、双方の国の指導者らや国民に対して、両国の仲が修復されたということが示されることになります」
「確かに否定できぬな」
怒り、暴言を発することに完全に疲れ切っていたエウドキヤは、上里勝利の言葉に手短に答えた。
「私がポーランド=リトアニア共和国の王女ではなく、大貴族の娘との縁談を勧める理由ですが、下手に王女との結婚を行っては、ポーランド=リトアニア共和国の王位を巡る争いに、我が帝国が巻き込まれる危険があります。それを避けることを考えれば、大貴族の娘と皇太子殿下を結婚させるべきです」
「ふむ」
上里勝利の言葉に、エウドキヤも道理があるように考えられだした。
「分かった。それなりの相手を探せ」
「仰せのままに」
二人は合意に達した。
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