エピローグ―5
又も視点が変わります。
尚、所々でこれまでと描写が違う、というツッコミの嵐が起きそうですが。
これは木下小一郎首相と言えども、30年近く前のエジプト独立戦争の精確な真実を知らないことから起きているということでお願いします。
そんな想い等を上里松一の子や孫らがしている頃、羽柴秀頼と木下小一郎は密やかに逢っていた。
「君が羽柴秀頼君かな」
「はい、そうです」
「兄に余り似ていないな」
「兄とは」
「君の父上、羽柴秀吉は私の実の兄だ。本名は木下藤吉郎だ」
「えっ」
秀頼と小一郎は、そんな会話を逢って早々に交わした。
そして、小一郎は、るる明かしていった。
30年近く前のエジプト独立戦争で、エジプトが独立するように兄が画策したこと、その結果としてローマ帝国の事実上の母体となるエジプトの半独立(オスマン帝国の属国化)が果たされたこと。
だが、それは当然のことながら、オスマン帝国どころか、オスマン帝国の同盟国である日本政府上層部にとっても許されることでは無かったこと。
「だから、オスマン帝国としては、エジプトの半独立を認める代償として、兄のクビを文字通りに求めることになった。そして、日本政府もそれを表向きは認めざるを得なかったのだ」
そう言って、小一郎は長い語りを一旦は終えた。
「表向きはですか」
秀頼はそう言って、暗に小一郎に話の続きを促した。
「そうだ。兄の処罰については、日本政府もかなり悩んだ。何しろエジプトにいる日本人がオスマン帝国に対する独立戦争を使嗾しても当然、という状況にエジプトはあったからな。最終的に別人の死刑囚のクビを木下藤吉郎のクビとして渡して、その一方で兄に羽柴秀吉という別人の名前を与えて、秘密が保てるようにパナマへと赴かせることになったのだ。そして、生涯、日本に戻らせない、永久国外追放という処罰を下したのだ。勿論、その秘密がバレたら、今度こそ死刑と言い含めた上でね。そして、君がパナマで生まれたということになる。君の両親は、それを君に伝えていなかったようだね」
「ええ」
小一郎の問いかけに、秀頼はそれ以上の言葉が出なかった。
だが、その一方で内心では色々とこれまでに考えていた疑問点が氷解していた。
何故に両親が、自分の家系については口が重かったのか。
母(お寧のこと)が養母なので、自分の家系について言わないのも当然とは考えていたが、父まで自分の家系について言わないことについて、自分は内心では不満だった。
だが、両親の態度からどうにも聞けなかったが、叔父(?)が言った事情からすれば当然だ。
下手に家系について話せば、それがきっかけになって、巡り巡った末にオスマン帝国政府を日本政府が騙していたという事実がバレる可能性がある。
勿論、その可能性は限りなく低いと言えるが、万が一ということを考えれば、私に秘密を伝えなかったのも当然のことだ。
「とはいえ、このことはこの場限りにせねばならない。同盟国でもあるオスマン帝国を、日本政府が騙していたのは、決して明らかにはできないことだからね。その一方で、君が自らの出自を全く知らないままで生涯を送るというのも、肉親として私の良心が痛むことだ。だから、この際に伝えておくことにした。それに主治医も明言しないが、私ももうすぐ兄にあの世で再会することになりそうだ。色々と体調が優れなくてね。だから、尚更にこの際にと私は考えた次第だ」
小一郎は、やや長めに言い、その内容に秀頼は無言で肯くしかなかった。
「私の後を色々な意味で継ぐ娘婿の秀次には、君のことは他言無用として伝えている。秀次は君にとっても従兄弟になる。何か大事なことがあれば、相談したまえ。きっと君の力になってくれるだろう。それから、加藤清正や福島正則も君が遠縁になるのを承知している。その二人も頼りになるだろう」
「色々と有難うございます」
小一郎の言葉に秀頼は頭を下げながら想った。
自分の出自にそんな秘密があったとは思わなかった。
これで、第10部を終えて、一旦は完結します。
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