第57章―9
さて、話が横道にずれ過ぎたので、本題に戻る。
「我が家の跡取り問題はともかくとして。矛と盾ではありませんが、53式戦車に対抗できる程の対戦車兵器も必要不可欠ですな。北米共和国も、日本の53式戦車の情報をどこからか手に入れて、50ミリ級の主砲を搭載した新型戦車の開発をほぼ完了したとか。詳細は分かりませんが、恐らくは53式戦車と対等と考えるべきでしょう」
真田昌幸大佐は言った。
「うむ。これまでは、対戦車銃と37ミリ対戦車砲と、二本立てで対戦車兵器を装備してきたが、何れも53式戦車には対抗できない兵器になりつつあるな。これまでは最大でも37ミリ級の主砲を搭載していて、装甲も最大25ミリ程度の戦車に対抗する程度という前提で開発されてきて、それで充分だったが、53式戦車と北米共和国の新型戦車が同等ならば、それに対処するには共に力不足だ。対戦車砲は、53式戦車の主砲をほぼ流用した57ミリ対戦車砲に、対戦車銃は70ミリの携帯式対戦車噴進砲(史実で言えばバズーカ砲)に置き換えられる予定だが、何だかんだ言っても予算等の問題から進んでいないな」
武田勝頼少将は、やや長めにぼやくように言った。
「確かにそうですな。我が日本陸海軍の最大の敵は、外国には存在しない。どこにそれはいるのか、それは我が国にいる大蔵省だ、それこそ「皇軍来訪」以来の軍内部のボヤキですな。金が無いと、新兵器の開発等をしても、その兵器への更新等が進まないという事態が起きる」
「少しでも開発費等を削ろうと、例えば、57ミリ対戦車砲は53式戦車の主砲をほぼ流用して、当然に砲弾は共用する等、金が足りない部分は工夫で少しでも補ってはいるが、限度があるからな」
二人の会話は続いた。
「大蔵省の理屈も分からなくはないですよ。現在、戦車を実戦で運用できるのは、我が国以外は北米共和国とローマ帝国だけではないか。そして、我が国と北米共和国、ローマ帝国が戦争をすることがあるのか、仮にあったとして、大量の戦力を常備しておく必要があるのか」
真田大佐は、如何にも大蔵省の予算を査定する官僚のような口調で言った。
「オレゴンからカリフォルニア、更にはメキシコの国境線を突破できたとして、北米共和国がそれ以上の侵攻作戦を展開できる筈が無い。そして、時間が経てば、日本本土の工場群が本格稼働する。その上で北米共和国への反攻に移れば十分ではないか。ローマ帝国と日本が戦争をすることがあるのか。それこそローマ帝国がロシアのみならず、ウラル山脈からシベリアへ、更には明や朝鮮にまで侵攻してくるとでもいうのか。そんなことをローマ帝国が考える筈があるまい」
武田少将も、真田大佐の口ぶりを真似て言った。
「確かに日本の現状がそうですからな。53式戦車にしても、本当に必要なのか、大蔵省から散々に難癖をつけられましたからな。ローマ帝国の動きが怪しい、オスマン帝国に対して再度の戦争を仕掛ける可能性が絶無というのか、と外務省の側面支援を得て、半分はオスマン帝国に輸出するための戦車と言う口実で開発に漕ぎ着けたと聞きます」
「日本の現状からすれば、かつて、ポルトガルやスペインと戦っていた頃ならともかく、陸軍については戦車を始めとする重厚な装備は後回しで良いからな、それよりは、それなりに安価な歩兵等の装備を充実させた少数精鋭の部隊を編成して、植民地や国境警備等を第一の任務として考えるべきだ、という声が陸軍内部でさえ強いのは止むを得ないな」
真田大佐と武田少将の会話は続いた。
確かに日本の現状は、全くその通りとしか言いようが無かった。
そのために戦車等の重装備の充実は後回しになっていたのだ。
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