第六十九章<結婚式3>
「風が気持ち良いですね」
ゆっくりと歩く馬の背で、そう呟いた。
「そうだな」
短い返事を返してきたのはもちろん、アレンだ。
結婚式まではあと半月。
段取りから、先日ようやっと決まった衣装まで、ある程度の事前準備が終わったため、私たちはデートへ行くことにしたのだ。
当然この半年間、頻繁にとはいかずともそれなりに二人で出かけることはあったけれど、婚前では今日が最後のデートになる。
良い思い出になると良いなあ、と思いながら、葉を色づかせた木々を眺めていれば。
「泉が湧いているな、ここで休憩しよう」
いつか、お義母様がおっしゃった言葉と同じことを口にした。
それがなんだか微笑ましくて、思わず笑みがこぼれる。
アレンはそれに疑問を浮かべるような顔をしながらも、テキパキと馬から荷を降ろし、水を飲ませ始めた。
私も少し遅れてそれに倣う。
──そう。今日のデートの行き先として選ばれたのは、フィオの城外にある森なのだ。
ちなみにこれは、アレンの希望だったりする。またここは、以前私がお義母様とデートをしたあの場所だ。
以前のデートの後に、お義母様に抜け駆けをされたと膨れていたアレンを思い出す。
今日、彼がここを推したのは、その上書きをしたいという気持ちがあるのだろうか。
そうだったら良いなと思う。
敷かれた敷布の上に並んで座った私たちは、バスケットから昼食を取り出し、時折お互いのそれを交換しながら平らげた。
会話はそこまで多くないけれど、アレンと過ごす穏やかな時間も、風で冷えてはいけないからと背中にかけられた彼の上着のあたたかさも、たまらなく心地よかった。
しばらくしてから、アレンはゆっくりと立ち上がり、私の方へ手を差し伸べてきた。
その手を取って立ち上がると、指同士が絡められていわゆる恋人繋ぎにされる。
「少し、歩かないか」
初めての手の繋ぎ方に頬を染めながらも、私はこくりと頷き、彼と並んで歩き出した。
その足取りに迷いは見えず、きっと散策をしようというわけではなく、目的があることが伺える。
やがてアレンは、泉のあった場所からほど近くの巨木の前で立ち止まった。
ひどく太いその幹が、重ねてきた年月の長さを物語っている。
紅葉する木々中で唯一、青々とした葉を茂らせるその木をぼんやりと眺めていると──不意に、体が宙に浮いた。
一瞬で高度が上がり、気づけば周りは緑色で溢れていた。
目を見開いて横を向くと、いたずらっ子のような顔で笑うアレンがいる。
それがとても可愛らしくて、私も釣られて笑みを向けた。




