第六十六章<皇太子の初恋2>
揶揄われているだけだと、解っていた。
解っていたにも関わらず、アレンは王妃の言葉に怒りを覚えた。
そんな感情を抱いた理由を自覚する前に、彼の口から言葉がこぼれ落ちる。
「何故、私より先にリリアーネとデートしているんですか!?」
――は?
一拍後、アレンは自身の言葉に驚愕した。
まるで、リリアーネとデートしたいと言っているようなものではないか。
……否、誰が聞いてもそうとしか聞こえないだろう。
しかし、自分は本当にそう思っているのだろうか。
その疑問を解消すべく、漠然とそんな光景を思い浮かべてみる。
色とりどりの花が咲き誇る王宮の庭園に二人きり。
おそるおそる差し伸べたアレンの手に、リリアーネは頬を染めながら自身のそれを重ね――
ほんの少し想像しただけで、体がカッと熱を持ったのを感じた。
それを取り繕いつつ、その原因を必死で探そうとすることに精一杯だったからなのか。
「アレン様…熱はありませんか?」
そう声を掛けられるまで、目の前にいた彼女の存在に気が付かなかったのは。
思っていたよりもずっと近い二人の距離は、アレンをさらに混乱させる。
そしてあろうことか、リリアーネは固まるアレンに向かって手を伸ばしたのだ。
ふと気が付けば、細くて白い、白魚のような手が、アレンの額に触れている。
――何が起きたのか、理解が追いつかない。
いや、先ほど熱はないかと尋ねてきたのだから、それを確かめているだけだ。他の意味など、ありはしない。
そう自分に言い聞かせ、アレンはリリアーネを見つめた。
お互いの視線が交差したその瞬間、彼女の頬にさっと赤みが走る。
それが、とんでもなく可愛らしくて。
気がつけば、その表情に見惚れていた。
リリアーネはリリアーネで、自分の行動に羞恥を感じているのか、固まったまま動くことができないでいる。
いつの間にか、母も馬ごと姿を消している。
そんな状態が続いた後、リリアーネはアレンの額からそっと手を離し、呟いた。
「……熱、なさそうですね」
「まあ、な……」
辛うじて言葉を返すが、それよりも、彼女のぬくもりが離れることが寂しくて。
遠ざかってゆくその手を追いかけるようにして、アレンはリリアーネの手を取った。
再び頬を赤く染めた彼女は、やっぱりとても可愛らしくて。
その青い瞳に自分の姿が映っていることが、無性に嬉しくて。
嗚呼。この気持ちは、きっと。
「あ、アレン様!ねねね熱はないようですが、やっぱり少し疲れていらっしゃるのですね!わかりました!少し休みましょう少し!」
リリアーネは唐突にそう言って、ふいと視線を逸らした。
「……ああ」
そのことを少しばかり残念に思いながらも、アレンは彼女の腰に腕を回し、歩き出す。
まだ赤みの残るリリアーネの顔をこっそりと覗き込みながら、彼は自分の感情に恋という名前を付けた。
おおおおおお久しぶりです……(土下座)
お待たせしてしまい、大変申し訳ございませんでした。
次の投稿はこれ以上遅くなることはないと思われます。(あってたまるか)




