第六十三章<ぶっ倒れた毒舌令嬢2>
ほんの少し、お互いに沈黙する。
アレン様は何か考えるそぶりを見せて、じっと固まっていた。
なんとなく、声をかけない方が良いと感じて、私はじっと黙っていた。
彼は少しだけ視線を彷徨わせた後、そっと呟く。
「その、私が何かしてしまったのならば、言ってほしい」
「へ!?」
――何を言い出すのかと思えば。
この人がに、不快なことをされたことなど一度たりともない。
人前でうまく笑えなかったりといった、将来のことを考えると若干不安な面があることは否めないが、一個人としての不満なんてあるはずがないのだ。
「そんなこと、あるはずがありません!」
そう、力強く言い切ると、彼は安堵したように、ふっと軽く息を吐いた。
そして、ポツリ、ポツリと語りだす。
「……ずっと、考えていた。あの時、貴女を――リリを、連れ出して正解だったのかと」
……あっという間だったような、ずっと遠い昔のような、半月も前の話。
長い睫毛をそっと伏せて、彼は続ける。
「貴女は強い。私が居ずともきっと、数日後には逃れようのない証拠を添えて、あの阿呆と毒婦を糾弾していただろう」
いや、多分アレン様からの手助けがなかったらそうしてたけど、結構リスキーでしたからね?成功する確率私でも低めだったと思いますが。
「もしかすると、その勢いでランス国内の膿を出し切って、強国へと導いていたかもしれない」
だから買いかぶりすぎですって。
表情を変えぬままそんなことを考えていると――アレン様は、とんでもないことを言いだした。
「……そして、いずれはランスのまともな男と結婚して、「何言ってるんですか!?」」
思わず、彼の言葉を遮ってしまった。
だけど、こればかりは譲れない。
「――まず、あの状況下では、私とルミナス公爵家だけで場をひっくり返すことはかなり難しいと、冷静に考えれば分かるはずです。証拠があったとしても、驚きのあまり使い物にならなくなった両陛下や、弟に甘い王太子も頼れませんでしたし、貴方の言う“まともな人”の数も驚くほど少ないような状態だったんですよ?」
――それに、と、私は続ける。
「たらればの話なんて、考えないでください。私はあの時、貴方が私を助けてくれたことがとても嬉しかったし、心の底から結婚したいと思えるのも、貴方だけ」
だから、と言ったところで、思いっきり抱きすくめられた。
耳元で、「ありがとう」と囁かれる。
とりあえずは落ち着いたようだ。
安堵で力が抜けたが、彼は私のことを抱きしめたままだ。
ちょっと長い。普段のアレン様なら、ここで解放してくれる頃なのだが。
そんな、ちょっとした違和感を感じていると、彼は私の額にそっと口づけ、あろうことか、こんなことを申された。
「……私も、愛している」
――え?
言われた言葉にも当惑したが、それよりも――アレン様、“も”って言わなかった?
――私の感情、読まれた?




