第六十一章<その気持ちの名は3>
そして、全ての恋愛小説を熟読した私は……卒倒するかと思った。
自身の感情に名前を付けることができた安堵と、その名前の正体への動揺ゆえに。
心拍数が上がり、胸の中がふわふわして、ほんのり甘いような酸っぱいような心地になる……心理描写としてばっちり使われていましたよ、ハイ。
「恋」
そう呼ばれる感情に対しての、描写に。
……恋!?私が!?アレン様に!?恋!?
今まで、色恋事に超が五つくらい付く程度には疎かった私としては、かなり心臓に負荷がかかる出来事だった。
いや本当に、なんて書いてあるのか一瞬わからなくなったし。
そもそも、私は公爵令嬢なのだ。
結婚は政略の手段でしかないし、愛だの恋だのいう感情は、婚約後・結婚後に育てるものだと思っていた。
――恋した相手と添い遂げられる可能性なんて、限りなく低いのだから。
だったら、そんな感情を育てるのは後回しにすればいい。
結婚相手に向けるべきそれを封じ込めることで、すべて解決する。
鈍感であれと、無意識のうちに自分に言い聞かせ続けた結果、与えられた婚約者は第二王子、ルーク様。
彼を相手に、封印した恋心が目覚めるはずもなくて。
それでも、ルーク様と結婚すると信じて疑っていなかった私は、感情をひとつ封印したことすら、忘れてしまっていた。
その封印が今、やわやわと解けようとしている。
冬が、春の日差しに溶けるように。
ぐちゃぐちゃに絡まったネックレスが、ほどけるように。
それがたまらなく――怖い。
アレン様は、多くの女性に言い寄られ、媚びを売られ、常に傷つけられている人だ。
恋心を抱いてすり寄る女性なんて、嫌いな部類だろう。
彼に嫌われたくない。
それなのに、もっと一緒に過ごしたくてたまらないし、彼に熱い視線を向ける女性に対して必要以上に強く牽制したい。
アレン様は、私のものなのだと、公言したい。
彼が厭う女性そのものではないか。
でも、この気持ちを封じたとしても、テレパシーを持つ彼にはあっけなく伝わってしまうのだ。
それで、もし嫌いだとでも言われたらと思うと……。
――私は、馬鹿だ。
なんで、こんな感情に振り回されているのだろう。
こんな様子では、この先彼の婚約者として、ゆくゆくは妻として隣りに立つことなんて、できるわけがない。
考えろ。
この気持ちを、なんとか隠す方法を。
そう思うのに、考えてしまう。
彼も、同じ気持ちを、私に向けてくれはしないかと。
そんな、物語のようなことを。
だいたい、私に男性を振り向かせる魅力なんてあるとは思えない。
彼が私を迎えてくれたのは、私がまっすぐであろうとしたからだ。
アレン様が私を選んでくれた条件を、みすみす捨てるなんてことは、できるわけがない。
考えれば考えるほどわけが分からなくなってしまい、頭の回路が焼ききれそうになる。
そのことにも気づかず、思考を続けた私は――知恵熱でぶっ倒れた。
あとどれくらいで完結するかな……




