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第五十八章<私の毒舌な婚約者9>

 翌朝、前の晩に父でありフィオ国王から、絶対に逃がすなよ!という言葉と、女性を逃がさないためのあれやこれやを延々と聞かされたアレンは、ルミナス公爵邸へリリアーネ嬢を迎えに行った。

 

 そして三日間、彼は昨晩の比ではなく美しいリリアーネ嬢に息を吞んだり、馬車内での会話が全然できずに落ち込んだり、悪戯心が芽生えて密着してみたり、馬車から降りる際、手を差し伸べる度、少しばかり恥じらう様子を見て心拍音を上昇させたり、自身の両親に翻弄されたり、婚約届にサインしたり、夜会でリリアーネ嬢に喧嘩を吹っかけてきた令嬢に激怒したり、リリアーネ嬢と踊ったり、ランスが崩壊したという情報を受け取り、ルークだけはこちらに引き渡すよう命令したりした。

 

 三日間、自身の隣に常に女性がいるという初めての経験したアレンだったが、それに対する心理的な負担は一切なかった。

 それどころか、安心感すら抱いていたように感じる。

 

 それはきっと。

 否、絶対に、隣にいてくれる存在が、リリアーネ嬢だったからだ。

 

 認めよう。

 彼女は、アレンが今までに出会った女性の中で、最も魅力的で、最も可愛らしく、最も聡明で、最も強く、最も優しく――最も、離れ難い存在だと。

 

 それは彼にとって、絶対に体験することはないはずの感情だった。

 自分と相性の良い令嬢を探すことを半ば諦め、父と母に頼んで、もう少し子作りに励んでもらおうかとも思っていた。

 そして自分は中継ぎの国王として弟または妹の成長を見守りつつ、その伴侶探しに尽力すれば良いと、そんなことを考えていた。

 

 そんなことを考えていながらも、アレンは自身の父、ロイが羨ましくて仕方がなかった。

 自分と同じ能力を持っていながら、自身の母、レイモンドのような女性と出会えた父が。

 今まで、頑なに気づこうとはしなかったが。

 しかし、リリアーネ嬢と婚約することができた今、驚くほどすんなりと、その感情を認めることができる。

 

 そして同時に、リリアーネ嬢に対する自分の感情の名が、執拗に彼の思考にこびりついて離れてくれなくなっている。

 

 今もそうだ。

 

 彼女の姿を思い浮かべる度、ふわふわとした甘い想いが一緒になって、彼の思考を支配する。

 

 これは酒のせいだと、頭を振って懸命に誤魔化そうにも、誤魔化しきることができない。

 はぁっと息を吐いたアレンは、開け放たれた窓をゆっくりと閉じる。

 いい加減、風に当たり過ぎた。

 

 彼はテーブルの上に置いたグラスを手に取り、半分ほど残っていた赤紫色の液体をあおる。

 元の場所にグラスを置きなおした彼は、危なげのない足取りでベッドへと向かった。

 

 ボスンッという音を立てて、彼は柔らかい寝床へと倒れこんだ。

 

 もぞもぞと身体を動かして毛布を引っ張り上げた彼は、ほどなくして穏やかな寝息を立て始める。

 

 キラキラと淡い光を零す星々が、婚約者たちを優しく見守っていた。

 そして夢の中で、そっと囁くのだ。

 

 ――貴方は、婚約者に恋をしているよ


これにて、アレンside終了です!

さあ、色々すっ飛ばしてクライマックスにいきましょー!

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