第五十二章<私の毒舌な婚約者3>
しかし、それも束の間。
高らかに告げられた一組のペアの来場に、リリアーネ嬢はビクッと体を震わせた。
彼女は慌てて表情を取り繕ったが、その笑みがやや引きつっていたことが印象的だった。
「第二王子殿下、ルーク様及びレオポルト男爵令嬢、アメリア様のご到着~」
自分を捨てた男と、自分の婚約者を奪った女。
動揺して、当然だ。
むしろ、その程度しか外に出すことがなかったことを称賛したい。
そのまま彼女は、何も聞かなかったようにして、扉から離れようとした。
だが。
第二王子ルークは、アレンが記憶していたよりもずっと、性根が腐っていた。
彼は開口一番、こんな言葉をのたまったのだ。
「やあ、リリ。元気かい?」
正直に言おう。
今までに聞いた挨拶の中で、最もアレンの癇に障った。
その上、一番馬鹿げた挨拶でもあったので、二冠になっている。
そういった嫌悪感や不快感から、無意識に威圧を強めてしまったようで、周りにいた者の一人が小さな悲鳴を上げていた……が、生憎とアレンの耳に入ることはなかった。
そんなアレンの苛立ちも知らず、ルークは下品な笑みを浮かべて、リリアーネ嬢に語りかける。
「本当は君のことなど視界の端にも入れたくないのだけど、曲がりなりにも、僕の元、婚約者だからね。挨拶をしないのも悪いと思って。」
……こいつは、教育と名の付くものを受けてこなかったのだろうか。
誰が好き好んで自分を捨てた男に挨拶をして欲しいと思うのだろうか。
共感という感性を何処に捨ててきたのだろうか、この男は。
「今日は、正式にアメリアとの婚約を発表しようと思っているんだ。この前、君との婚約破棄を発表した時、一緒に発表してもよかったんだけど、それだと君の面目が立たないだろうと思ってね。一刻も早く発表したいのを、君のために我慢してあげたんだから、感謝してくれてもいいんだよ。」
公衆の面前で婚約を破棄されたということだけで、リリアーネ嬢の面目など無いに等しいことになっていると、分からないのか?
その上、彼女のために我慢したと?
そんなことを堂々と公言することで、自身の度量の広さを示そうとでも思ったのだろうか?
逆に、あまりに小さすぎる器が浮き彫りになっているのだが。
その上、レオポルト男爵令嬢は、リリアーネ嬢に見せつけるようにしてルークへとわざとらしく擦り寄って、甘ったるくうっとおしい声を上げた。
「そうですわ。少しも想っていない相手にここまで尽くされたルーク様の気持ちをお察しくださいね。私だって、ルーク様と正式に婚約するのを、今か今かと待っていたのですから。」
は?
ルークがリリアーネ嬢に尽くした、と?
暴言を吐き、徹底的に貶めた、ではなく?
他人事でありながら、アレンの堪忍袋の緒が切れかけた。
鋼の理性で辛うじて抑え込んだが、その代償に威圧を更に強めてしまう。
周りの人間の一部が半泣きになっている姿が視界の端を掠めたが、そんなことはどうでも良かった。
自身の苛立ちを抑え込むべく、必死になると同時に、未だ表情を取り繕い続ける彼女の忍耐力に心から感嘆する。
そんなアレンの心情も知らず、ルークは更にとんでもない言葉を口にした。
「だいたい、君のようなかわいげのない女を一度は婚約者にしてあげた僕に、感謝の言葉もないの?薄情だなあ。」
自分で書いておきながら、大分腹が立ってきました…(#^ω^)
なんとかアレン視点を終わらせる目途が立ったような気がしますε-(´∀`*)ホッ




