第五十一章<私の毒舌な婚約者2>
夜会へと足を運んだアレンには、予想通り、彼が会場へ足を踏み入れた瞬間から、大量の人間が群がることとなった。
そのほぼ全てを無視した彼は、これ以上近づいてくる者が増えないようにという意図から、自身の纏う威圧感を強化させて、会場の隅へと移動する。
案の定、近づいてくる輩は激減したため、内心ホッとため息を吐く。
小さなこの国の人間は、一人あたりの魔力がとても少ないため、この程度の威圧感でも結界としては十分な効果を発揮してくれたようだ。
後は王と王妃、王太子あたりに挨拶してから引き揚げようと思っていた。
そんなとき、高らかに響くラッパの音と、衛兵の声が聞こえた。
「ルミナス公爵夫妻及び、ルミナス公爵令嬢、リリアーネ様のご到着~」
アレンは、何の気なしに、ふっとそちらの方に目を向けた。
そしてその瞬間、絶句した。
漆黒の髪に、雪のように白い肌。
深い深海のような蒼い瞳には、強い意思の色が宿っている。
淡い藤色のドレスを見事に着こなすその姿は、嫌でも人目を引き付けた。
しかし、それも束の間。
周囲からは、悪意ある囁きが聞こえだした。
怪訝に思い、幾人か適当な人物を選んでその思考を読めば、瞬時にその理由が流れ込んでくる。
どうやら彼女は、無能な第二王子の婚約者として不憫にも抜擢されたが、その王子が浮気をしたという、どう考えても王家側が悪い理由で、両家の承諾もないまま一方的に婚約を破棄されたということだ。
ごく一部の者たちはそれを理解しているため、ルミナス公爵令嬢――リリアーネ嬢に同情的な視線を送っていた。
だが、それを理解していない、もしくは理解しようとしてすらいない者たちは、自分たちの保身と憂さ晴らしを兼ねて、彼女の陰口を叩いていた。
そのことに酷く嫌悪感を抱き、そんなことを言っていた者たちを軽く睨む。
それを見た者たちは、一瞬ビクッと体を震わせてから、わざとらしく別の話に花を咲かせる。
その姿を見ても、溜飲は少しも下がらなかった。
そのことに少しばかり驚きながらも、アレンは何とはなしにリリアーネ嬢の方を見た。
ここまで酷くこき下ろされているのだ。
怒りや悲嘆。憎悪を感じていない筈がない。
そう、思っていた。
しかし、彼女は笑っていた。
その笑みは、アレンが思わず見惚れてしまうほど美しくて。
リリアーネ嬢に聞こえる声で、彼女を嘲笑っていた者たちを黙らせるには、十分な威力を持っていた。
そんな彼女の心情は、凄まじいものだった。
『悔しい。
悲しい。
腹立たしい。
辛い。
――でも、絶対に負けるものか』
アレンが想定していたものより遥かにマシだったが、それでもなお、彼女の心の中には、暗い感情がこれでもかというくらいに犇めいていて、通常の人間ならば押しつぶされてもおかしくないような状態だった。
それなのに、彼女の心は美しかった。
この世の全てを諦め、全てを憎むことに逃げようともせず、真っ向からそれに立ち向かっていた。
ギリギリの状態でありながら、笑顔でそれに耐えていた。
心の根底が犯されることなく、誰かのことを第一に考えようとしていた。
――その姿が、神々しいまでに尊かった。
あれ、おかしいな…長くなりそうな予感しかしない(-_-;)
サラッと終わらせる筈が( ノД`)シクシク…




