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第四十九章<過去の決算3>

「リ、リ?…君は、どうしたん「何度も言わせないで。愛称で呼ぶな」」


彼の言葉を遮った上、口調をキツくしてもう一度同じことを言った私に、ルーク様はかなり当惑しているようだが――そんなの、私の知ったことじゃない。

私は、私が話したいことを話すだけだ。

だから。


「私、貴方のことが、嫌いでした。…最初から、ずっと」


そう、呟くように。

気付かないフリをしていた本心を、曝け出す。


それ、なのに。


そんな私の言葉に、ルーク様は心底不思議そうな表情で、こう尋ねる。

 

 「――え?僕と君との婚約は、君が希望したから成立したんじゃなかったのか?」

 

 

 は?

 

あまりに突飛かつ馬鹿らしい発言に、言葉が付いてこない。

 啞然としている私を差し置いて、彼は至っていつもの表情でつらつらと“彼の中で真実だったコト”を述べていく。

 

 「だって、この婚約、王家側からしたら何もメリットがないじゃないか。関係が悪くなり始めてた隣国の王女と婚約する話だって出てたわけだし。兄上が国内の令嬢と婚約していたわけだから、僕が他国の人と婚約した方がいいと思うし。そこをリリが親の権力を乱用して僕との婚約を取り付けたんだろ?違うのか?」

 

 そんな、言葉の数々に、私の堪忍袋の緒はブチっと切れた――なんてことはなく。

 逆に、これまでの怒りや、恨みといった気持ちが、消えていくのを感じた。

 

 彼が私を貶めたのは、意図したとかそういうものではなかった。

 ただ、本当に私が悪で、アメリア嬢が善だと思っていて、自分が正義だと疑っていなかった。本当に、それだけの話。

 

 そう、気付くと。

 物事を、自分が見た一面しか信じることのできないこの人が、何だか哀れに思えてきて、とても怒る気になれなくなった。

 そんなことをずるずると引きずって、自信を無くしていたことが、馬鹿らしい。

 

 そのことに気が付いたのはアレン様も同じようで、その青みがかった瞳から怒りを消した上、憐憫を含んだ視線をルーク様へと向けていた。

 

 それでも。

 それに気づいたとしても。

 このままで終わらせることができるかと聞かれれば――答えは否だ。

 

 けじめは、つけるに越したことはない。

 そのために、私は“真実”ではなく、“事実”を口にする。

 

 「――ルーク様は、ご存じなかったのですか?私との婚約は、政務を滞りなく行えそうにない貴方を補佐するためです。お断りしたかったのですが、両陛下からのお頼みを退けるわけにもいきませんからね。渋々婚約を結びましたの。まあ、ルーク様も同じような状況だったようですけれどね。しかし、婚約の理由が知りたかったのならば、どなたかに一言尋ねればよろしかったのに。ああ、尋ねた結果、その答えが返ってきたのですね。誰に尋ねられたかが気になるところですが、もう終わった話ですし、詮索するのは止めておきます。そうそう、先ほど、私が教師に色目を使って成績を偽造した、優等生ぶった女だったと申されましたが、事実か否かと聞かれれば、それは否です。大体、私が授業を受ける際は、当然のことながら二人きりではございませんし、何なら常に王家の影が付いております。よって、私が不正を働くどころか不貞を働くことすら不可能。ああ、王家の影すら買収したのだとかいう理論は通じませんからね?彼らは王族。しかも自身らが仕えるに値すると認めた者の命令にしか従いませんから。後はそうですね…ああ、そうでした。貴方は隣国の王女様と婚約を結んだ方が良かったのではないかとおっしゃっていましたが、それも政治的な意味では間違いですね。貴方の兄君である王太子殿下が何らかの理由で廃太子されない限りは、十中八九、貴方は臣籍降下することになります。その際に貴方の妻となる女性が他国の方だったら、どうでしょう?貴方が言いたかったのは、王室に他国の王家の血を入れることでの関係強化でしょうが、その貴方は王族ではなくなるのです。確かに、貴族同士で縁を結んだとしても同様の効果はございますが、その場合にはスパイとして他国側の人間ではないかということを警戒されることにもなりかねません。そういった意味では、貴方は他国の人間と婚約すべきではなかったのですよ。現に、隣国に宣戦布告され、あっさり負けておられますでしょう?もう一度言いますが、私と貴方との婚約は、私が貴方をカバーするためです。貴方も私が去ってから気づかれたと思いますが、実際に私が、政務のほとんどを行っておりましたからね。……真実とは、実際にあったことではなく、その人が信じるもののことを指すと言います。今の私の話を信じるも拒否するも、貴方の自由です。ですが、実際にあったことは、今私が申し上げたことだということを認めなければ、貴方は前に進むことはできないと思います。私が言いたいことは、これが全てです。どうかお元気で」

 

 伝えたいことは伝えた。

 後はもう、知らない。

 

 そう思って、私はルーク様の顔を見ることなく、椅子から立ち上がった。

 そして、そのまま真っ直ぐに扉の外へと向かう。

 私に続いて、アレン様が扉から出た、その一拍後。

 

 バタンと音を立てて、扉が閉まる。

 その音を最後に、私とルーク様の道は別れた。


執筆に割ける時間が取れたので、予告より早めに投稿できました\(^_^)/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 長っ(笑) そして、すっきりでした!!! 毒舌リリちゃんが戻って来たようです~
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