第四十六章<アレン様の私室に連れ込まれました8>
私は、少しして泣き止んだアレン様に、無言でハンカチを渡す。
まあまあ気まずいし、何ならかなりキツい言葉をぶつけてしまったこともあるので、視線を合わせないよう気を付けながらだが。
アレン様はというと、同じように無言でハンカチを受け取ると、黙って目元をぬぐった。
そして流れるような動作でそれを私に返すと――お互いに沈黙した。
――うん、気まずい。気まずすぎる。
やることがなくなったとかいうわけでは全くないが、次に何をどうすればいいのかが出てこないという状態だ。
アレン様も同じような状態らしく、隣り合って座っていながらも微動だにせずお互いの視線が合わぬように注意するという、何が何だかわからないような現象が現在進行形で発生している。
これ、ホントどうしよう。
色々な選択肢が浮かんでは消える。
悩んだ末に私が選んだのは――とりあえず謝罪をすることだった。
ふっと短く息を吐き出し、アレン様の方を向く。
何故かアレン様も、全く同じタイミングで私の方を向いたため、視線が合うバチっという音が聞こえた気がした。
いや、バチバチ何かを飛ばしてにらみ合ってるわけじゃ全然ないんだけど。
でも、気にすることでもないと思いなおし、言葉を発した。発そうと、したのだが。
「あ、の」「その…」
ん?
もう一度、アレン様と私の視線が重なった。
そして三秒間見つめあった後……どちらからともなくクスッと、小さな微笑みが零れる。
そして、しばらくの間、お互いに笑い合った。
笑いの波が引いてきたころ、アレン様がすっと手を出し、先に話せというような合図を送ってきたため、ありがたく先に話させてもらうことにする。
「……アレン様。感情に任せてあのような言動を取ってしまったこと――大変、申し訳ございませんでした]
言葉を言い終わった後、そのまま深く礼をする。
ひゅっという音が聞こえた気がするが、聞こえないふりをして頭を下げ続けた。
そうしていると、顔を上げろ、という声が降ってくる。
ゆるゆると顔を上げれば、困ったように笑うアレン様の美しいご尊顔があった。
アレン様は、表情をそのままに、言葉を紡ぐ。
「私こそ……変に気を遣わせて、悪かった、な」
「いいえ!とんでもないです!非があるのは…その、私です、し…」
最後の方はごにょごにょと言い淀んでしまったが、アレン様は別に気にした様子もないため、こっそり安堵する。
ああ、何かあったとき、お互いにすぐに謝れるのって素晴らしい!
ルーク様と何か衝突したときなんて、何をどう考えても向こうが悪いのに、無駄に高いプライドのせいで絶対に自分の間違いを認めないで、でも言い返すような語彙力も全然ないもんだから、ただただ訳のわからないことを叫んで逃げられるってパターンばっかりだったもんなぁ…。
本当に、アレン様と婚約して良かった。
そこで思考が終了するはずだった、のだが。
あれ、ルーク様?何か忘れてるよう、な…あれ?
突如として、そんな思考が生まれてきて。
次の瞬間。
「あーっ!ルーク様のこと忘れてた!」
うっかり、そんなことを叫んでしまう羽目となった。
言いたいことはただ一つ。
ごめんなさい!!!!!




