第四十二章<アレン様の私室に連れ込まれました4>
耐え切れずにギュッと目を瞑れば、ふわり、と頭が大きな手のひらに包まれる。
私よりもずっと大きくて、ところどころに剣ダコのできた、少し硬いアレン様の手。
その状態のまま、そっと頭を撫でられる。
反射的に目を開けて上を見上げれば、優しい笑みを浮かべたアレン様がいる。
目が合ったと思えば、その笑みがだんだん、私に近づいてき、て。
そっと、額に柔らかいものが当たったと気付いたときには、もう彼の笑みは物理的に遠ざかっていた後で。
その柔らかいものがアレン様の唇だったと理解したときには、私たちの距離感はもう、先ほどと全く同じものに戻っていた。
顔から火が出てしまうのではないかと思うほど、首から上が熱い。
私が炎魔法を使うことができるのだったら、今ごろはこの部屋が燃え上がっているに違いない。
いや、炎魔法を使うことは出来ないし、火が出たとしてもアレン様に一瞬で消火されるのだろうけど。
真っ赤な顔をして無言で悶える私を完全に無視して、アレン様は先ほどの続きを話し始める。
「そんなときだった。貴女に――リリと出会ったのは」
――リリ。
私の愛称を、呼ばれた。
家族や数少ない友人からしか呼ばれない、私の愛称を。
アレン様と出会ったあの夜会で、私に喧嘩を売ってきた阿保王子…こほん。ルーク様から呼ばれたときは悪寒が走る程度には気持ち悪かったのに。
アレン様から呼ばれるのは、こそばゆい感じがするものの、ふわふわとして温かいような心地にさせられる。
その理由は、分からないけれど。
ドキドキとする心臓は無理矢理押さえつけて、アレン様の話に専念することにする。
「ルークの愚行に対して真っ向から相対し、正論で論破した貴女の姿が、私には眩しかった」
え、待って下さい。
私の黒歴史が眩しかったと?
あの行動、私が選ばれたことに対する一番の疑問点なのですが。
「あれだけ不満を溜め込んでいながらも、ギリギリまで耐え続け、涙でさえ人目に付かないところで零す姿に――惹かれた」
ちょっとちょっと。
あの公爵令嬢としてやってはいけない行動に惹かれたですと?
「…同時に、私も全てを溜め込む必要はないのかもしれないと。そう、思った」
いえ、私はともかく貴方は溜め込んでいるものの量が桁違いなんです。溜め込みすぎたらそれこそ死にかねません。
それだけではなく。
あのときの溜め込みすぎるなという言葉は、アレン様が自分自身に言い聞かせる言葉でもあったわけだ。
「それに――他人を蹴落として自分たちだけが幸せであればいいという考えの人間が多数を占める中で――誰かの笑顔を見る方が好きだという貴女は、本当に美しかった」
「へ!?」
う、つ、く、し、い?
理解不能、意味不明という四字熟語を体現したような本日二度目のアレン様の言葉を最後に、私が思わず固まってしまったことは――致し方無いことと言えよう。
糖度高めに…できたかな?




