第四十章<アレン様の私室に連れ込まれました2>
――人間、という生き物は、言葉を交わすことで目の前にいる人間と相対することを当たり前のことと認識している。黙っていても自分の考えていることは相手に伝わらないし、相手の胸の内は分からないから。
そのため、虚偽の発言をしたり、言葉の使い方を変化させて物事を穏便に運ぶといったことが可能になるというわけだ。
しかし、フィオの王族は違う。
黙っていても自分の考えていることは相手に伝えることができるし、相手の胸の内だって隅々まで把握することができる。
同時に、人が意見を伝えるために使うもの――声色だとか口調だとか、手の仕草だとかいったことが、全て不要となる。
それによって感じる不自然は、時に自身の思考を読まれているという恐怖をも上回る。
よく考えるとアレン様は、私が婚約破棄された後に中庭で泣いていたときに発した、私を慰めるような捨て台詞を除くと、心を読む以外のことにテレパシーを使っていない。
それはきっと、自分が一言も言葉を発さずとも会話が成立してしまうことに対する違和感を感じさせることがないようにという配慮だ。
やはり、アレン様は優しい。
胸がじんわりと温まるような、そんな感覚を覚える、
はじめて体感する感情に戸惑っていたところ、目の前のテーブルに、アレン様がお茶を入れたカップを置く音で我に返る。
それでもまだ、どこかぼうっとしていた頭は、アレン様からの一言で一気に活性化した。
「隣、座るぞ」
突如としてかけられた、その言葉。
「は、ひゃい!」
…嚙んだ。
辛うじて返事はできたけど、嚙んだ。
本気で、穴があったら入りたい。
ついでに、クスリという微かな笑い声まで降ってくるものだから。
私の顔はきっと、真っ赤だ。
顔に集まった異常な熱を誤魔化すように、私はカップを手に取り、中の薄い褐色の液体を口に含んだ。
ふわり、と鼻腔をくすぐるのは、フローラルで柔らかい、それでいて長く残るラベンダーの香り。
彼がお湯を注いでから部屋中に広がっていたこの香りにはリラックス効果があるからか、少し落ち着いたような気がする。
「…美味しい」
気が付けば、そんなことを呟いていた。
そっと視線をアレン様に向ければ、彼の方は何故か、意表を突かれたような表情で固まっていた。
あまり表情を動かさない人なので、とても珍しい。
まじまじと見つめていると、その唇が動いた。
「――ありがとう」
一瞬の笑みと共に零れた“ありがとう”には、様々な意味がこもっている気がして。
私は、何故か目元に溜まってきそうになった涙を無視して、笑みを浮かべた。
中々進展しない…何故だ(´;ω;`)




