第三十七章<帰宅>
門を一瞬にして通り過ぎ、王宮が見える頃には、日はすっかり暮れて――いるなんてことはなかった。
というか、まだ昼前だ。
要するに私たちは、朝に出発して国境まで走り、昼前に戻ってきたことになる。
フィオというのは大国である。どんなに馬を速く走らせたとしても、国境の端から国の中心に建つ城までは、確実に一週間以上はかかる。
何故、たった数時間で行き来することができたかという話だが、その理由は意外と簡単なものだ。
お義母様の持つ魔法が、転移魔法だった。ただ、それだけ。
じゃあなんで国境まで転移しなかったのかというと、それにはそれの理由がある。
――フィオが、自国を強力な結界で覆っているためだ。
いや、もちろんフィオ以外の国でもやっているが、その強度と性能は他国の比ではない。
それは自動的に、城門を魔法を持つ者――要するに貴族と王族――が出入りする際、様々な制約をかける。
お義母様が森まで移動できなかったのも、このためだ。
転移魔法を持つ者――といってもこれもかなり貴重な魔法なのでフィオでの使い手はお義母様しかいないのだが――は、転移で国内へ入ることはできないようになっている。そして、その逆もまた然り。
そのため、お義母様は馬と私を連れて城門ギリギリまで転移し、そこから馬を走らせたというわけだ。
要するに、馬を走らせた時間はかなり短いのだが、いちいち言うことでもなんでもないので黙っておくことにする。
そして現在、馬を戻すために馬小屋まで転移した私たちを待ち構えていたのは、従者でも馬番のおじさんでもなく。
見るからにピリピリしたオーラを全開にした、アレン様だった。
いや、なんでいるのーー!政務はどうしたー!と全力で叫びたいのを、どうせ思考を読んでいるんだろうから省略し、
「ただいま戻りました」
という儀礼的な挨拶をするだけにとどめておく。
この人がテレパシーという魔法を持っている限り、いくら表情を取り繕ったところで無駄だと理解している私の表情筋は、恐らく――否、絶対にひきつっているに違いない。
静かに怒る人というのは、分かりやすく怒ったり、短気な人の怒り方とは比べ物にならない程度に恐ろしい。
そんなアレン様の怒ったところは何度か見たが、今回はそれらとはまた全然異なる怒り方である。
未知なるものというのはいつだって恐ろしいものである。
たとえそれが、一個人の表情筋の動き方と感情の機微であったとしても。
一方、お義母様は、余裕そうな笑みを浮かべている。
さすがと言ったところか。
是非見習いたいものだなんて、軽く現実逃避していたのだが、アレン様の言葉によって現実に引き戻された。
「母上、リリアーネを、どこへ連れて行っていたんですか?」
「ちょっと国境までデートしていただけよ?」
首をこてん、と絶妙な角度に傾けたお義母様だが、その内容はかなりぶっ飛んだものである。
しかし、慣れているのかどうなのか知らないが、アレン様の表情はそこまで変化することはない。表情は。
だが。
彼の方より発せられた次の言葉は、私を驚愕させるのに十分すぎるものだった。
「何故、私より先にリリアーネとデートしているんですか!?」
アレンの登場、よく考えると久しぶりですね…一応ヒーローなのにすみませぬ(-_-;)




