第三十五章<お義母様とデート4>
ぺしっ。
額に刺激を感じて顔を上げれば、ゆるゆると離れていくお義母様の手があった。
どうやら、お義母様が、私の頭をはたいたようだ。
それにもかかわらず、お義母様は、今まで私が見た中で、一番優しい表情をしていた。
一度は離れた彼女の手が、私の後頭部に回る。そのまま、髪をゆっくり撫でられる。
「優しいのね」
私の頭を撫でながら、お義母様は、呟いた。
「アレンの婚約者が、中々決まらなかったのも、それが理由。あの子は、テレパシーの能力を理解していたし、受け入れることができた。世の中、きれいごとばかりじゃないってこともね。ただ…あの子は、自分の心を閉ざすことで、自分の心を守ることにしてしまったのよね。貴族たちの問題は、当たり前のことだと割り切れても、婚約者のことに関してはね。どうしても、権力に固執しない子を探す必要があったのよ。だけど、フィオの婚約者候補には、そんなご令嬢、いないに決まってた」
実際私も、この国の出身じゃないしね。そう付け足したお義母様を視界の端に捉えながらも、脳内の私は、ひどく混乱していた。
大国、フィオともなれば、婚姻は政治としての役割よりも、王妃となる器が重要視される。だが、テレパシーを持つ者が相手ならば、そのお眼鏡にかなう令嬢は中々見つけることはできない。
裏でどんなことを考えているかが筒抜けだとしても、何かを隠してしまうのが、人間だから。
それで、フィオの王妃に選ばれる令嬢は、マナーや教育の観点から、貴族の身分があることという条件こそあれど、出身国も身分もそこまで重要視されない。
テレパシーを身に宿すという、強固ながらも繊細な心に、寄り添える優しさを持った令嬢というのは、とても――とても、少ないから。
それ故に、自身の伴侶にすると連れてきた令嬢の身分がどれだけ低かろうと、貴族である限りは、皆受け入れる。否、受け入れる必要がある。
――だからこそ、小国出身の私が選ばれても、文句を言ってくる人はほとんどいないわけだけど。
とりあえず、昨日のお馬鹿さん以外の人からは、アレン様との婚約の件で悪口を言われたり、やっかみを受けたことはない。
むしろ、歓迎されていたように感じた。
それは、そういうことなのだろう。
――皆は、私がアレン様を癒すことのできる存在として見ている。アレン様が、私を選んだから。
でも。
「どうして?」
一言、言葉が零れた。
「どうして、私が選ばれたのですか?」
私は、アレン様に見初めてもらえるような良い性格はしていない。むしろ、性格はあまりよろしくない方だろう。
相手に対する毒舌を胸の内に秘めておきながら、笑顔の仮面を貼り付ける。
それが、理想的な貴族であり、私の姿だった。
――その筈、だった。
そんな私が、アレン様に選ばれた理由がわからない。
それは、ずっと抱いていた疑問。
何故、彼は私を選んだのか。
その理由について悩んでもしょうがないし、その暇もなかったから、後回しにしていたにすぎない。
テレパシーの副作用について、理解した後ならば、余計にこの疑問も膨らむというもの。
私は、先ほどよりもさらに深い思考の海へと、沈んでいった。
お久しぶりです!
最近、体調不良というわけではないのに筆が進まず…ハイ、遅れて申し訳ございませんm(_ _"m)




