第二十九章<ルークは惑う2>
俺は、大臣が部屋を出てしばらくたった今もなお、放心していた。
あの、いつも俺に嫌味ばかり言ってきて、なんの努力もしていないくせに、勉強でもスポーツでも、俺よりも成績が良かった女。
どうせ教師陣に賄賂を渡したか、色目でも使っていたのだと思っていた。
出るところが少しも出ていない、子どものような体型。そのくせ、女として異様な程の筋肉量。
スレンダー、とかいったか。
微塵も俺の好みではなかったが、マニアックな教師にはウケていたようだったから。
高慢ちきな女だったから、その分無駄にプライドが高かった。
成績を取るためなら破廉恥なことでも何でもするのだと。
そう、思っていた。思っていたのに。
否。
そう、思いたかったのだ。
そんな考えが浮かんだ瞬間、俺は酷い頭痛に襲われた。
彼女との思い出が、次々と思い浮かんでは、消えてゆく。
デビュタントの際の、凛然とした面持ち。
母上からの厳しい王妃教育に、さも当然というようについていく姿。
裁判中に逆上し、偶々近くに座っていた俺に向かって襲い掛かってきた男の。
みぞおちに拳を叩き込み、気絶させたのだ。
俺を含めた誰もが、例外なく狼狽し、咄嗟に動くことができない状況下で。
リリアーネは、動いたのだ。俺を、守るために。
嗚呼、そうだ。
ただの優等生ぶった高慢な女が、こんなことができるわけがない。彼女は正真正銘、優秀だったのだ。
やっと。
やっと、理解することができたのに。彼女は、もういない。
フィオの王太子である、アレン様が。連れ帰ってしまった。今ならもう、理解できる。彼が母国へ連れ帰るほど、彼女は優秀だったのだ。
あの、屈辱的な社交界で、激昂した彼女がまくし立てた、不敬でしかない言葉は。二年間も、不当な扱いを受け続け、耐え続けた彼女が。耐えられなくなった。ただ、それだけなのだと。
理解はできても。
長年にわたって彼女を下だと思い続けていた俺は。その事実を、受け入れられない。
どうすればいい?どうすれば、全てを取り返せる?
そう、自問しても答えが出ないから。
あの、女のせいにする。
リリアーネという名の悪女が、この国を傾けたのだと。ねじ曲がった方向に、思考を誘導する。
自分でも、わかっている。
僅かに残った良心が、お前のせいだと否定し続けている。それでも。俺は、それに抗うことのできない、弱い人間だから。全て、彼女のせいだと思い込むことにする。自分で自分に、暗示をかける。それが、真綿で首を締める行為だと、知りながら。膨れ上がった自信と、妄想と、嘲りと、プライドを。消してしまうよりも、楽な方に。
逃げる。
「殿下、大変です!」
突如として、一人の臣下が部屋に入ってくる。
「何だ、騒々しい。」
我に返った俺は、苛立ちを隠すことなく、言葉を返す。
「国境が破られました!」
「…は?」
噓だ、ありえない。
まさか、宣戦布告をしてからだいぶたっているのか?
そこまで、状況は悪化しているのか?
全て、遅いとでも言うのか?
のしかかる重圧に耐え切れず、部屋を飛び出した。
向かった先は、愛しいアメリアの部屋だ。
彼女ならば、俺を慰め、良い解決策を考え出してくれるはず。
そんな期待を込め、彼女の部屋の扉を、勢いよく開け放った。
その部屋に、アメリアはいた。
しかし、いたのは、アメリアだけではなかった。
知らない、男が。
アメリアの、ベッド、の上、で。アメリア、に。のしかかって、いて。くち、びるを。あわ、せ。合わせ。
二人のふく、が。
そこ、ら中に、散らばって。ふく、が、あ。
「きゃあああああーっっっ!?」
絹を裂くような悲鳴が聞こえた。
アメリアの声だった。
アメリアの上にのしかかっていた男は、顔を真っ赤にして、いつの間にか、俺の胸ぐらを掴んでいた。
そして、
「お前が、このアメリアを無理に手籠めにしたっていう変態か!?」
などと。
そんなことを、ぬかした。
馬鹿な、逆だろうと、罵倒してやりたい。
だが、金縛りにでもあったかのように、どこも、動かせない。
気が付けば、頬が熱い。
じんじんとした焼けるような痛みに、一足遅れて自身の頬を張り倒されたことに気が付いた。
何が、どうなっているっっ!?
体にガウンを巻き付けたアメリアが、いつの間にか俺に近づき、告げる。囁く。
「あーあ。折角、運命の王子様を見つけたと思っていたのに、婚約者なしじゃあなぁんにもできないポンコツだなんてね。残念だわ。ああ、彼が誰だか知りたいわよね?彼はジャコモ。アタシの元カレ。隣国の子爵の三男だったんだけど、アナタの方が顔も好みだし、身分も高かったから、振ったのよね。でも、彼、アタシにぞっこんだったのよね。ちょっと前までは鬱陶しいだけだったけど、王太子妃になれないっぽいから、利用することにしたの。だから、アタシが彼を振ったのは、アナタのせいだってことにしたのよね。それだけ。じゃね、あ、アナタのテクニック、まあまあイイ線行ってたわよ?没落しても、どっかのご婦人の男妾くらいにはなれるかもね?」
アメリア。噓、だろう?信じていた、のに。信じ、て。
目の前にいる男が、また、拳を振り上げる。
「うわあああああああ!!!」
叫び声を上げ、俺は転がるように部屋を飛び出した。
そして。
更新が滞ってしまい、大変申し訳ございませんm(_ _"m)
不定期更新ではありますが、大体一週間に一話を目安にしていきたいと考えています。
今後、投稿できないときは後書きに書き足すことにしました。
ご了承ください。
あ、アメリアのざまあもちゃんと書きますので、ご安心ください( ̄ー ̄)ニヤリ




