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第二十八章<ルークは惑う1>

 第二王子、ルークは多忙を極めていた。

それはもう、酷く。

もう、何日徹夜しただろうか。

今まで政務など、一日に一時間も行っていなかった。

それで、国は十分に回っていたから、他国の王子が、政務が辛いとこぼす度、密かに嘲笑していた。

自分は優秀だから、政務など一日に一時間するだけで事足りるのだと。

当然、そう思っていた。

それなのに。

目の前には、何故か。

次から次へと書類が山積みになっていく光景が見える。

どうして、いきなり仕事が増えた?

そう、苛立ちながらも、渋々書類に向き合うことにする。

俺は、あの優等生ぶった女と違って、本当に優秀だから。これくらい、直ぐに終わるさ。

何より、早くアメリアに会いたい。

あの可愛げのない女とは違い、いつも笑顔で寄って来る、俺の女神。

アレン様があの女をフィオに連れ帰ったことには心底驚いたが、どうということはない。

国交を提出するというのも、その場の勢いで口にしたハッタリだろうし、冷酷無慈悲といわれるアレン様が、あの女を大切にするわけがない。

見た目だけは見られるだったから、めかけにでもするのだろう。

まあ、どうなったところで俺には関係はない。

何もかも上手くいくと。

数日前まで、そう思っていた。

しかし、いくら書類に目を通そうと、サインをしようと。

書類の山は、一向に低くならない。

むしろ、どんどん高くなっていく。

ルークは、生まれて初めて徹夜というものを行った。

それでも、山が高くなるのを抑えられるという程度。

さすがに、おかしいと思い始めた。

丁度良く、大臣が部屋に入ってきたため、尋ねることにした。

忌々しいことに、書類を追加しに来たようだが、まあ、俺は寛大な心の持ち主だからな。許してやろう。

一昨日から、この書類の山を見ても、仕事を追加しようとする馬鹿者たちは追い出すことにしている。

書類仕事だけでなく、困窮している平民どもの話を聞いてやってくれという馬鹿げたものまであった。

まったく、けしからん。

何故、王子たる俺が、平民の面倒まで見れると思っているのか、その神経が理解できない。

そんな話を持ってきた官は、その場で解雇した。

俺の周りに、あれぐらいのことも分からない愚か者を置いておくわけにもいかないしな!

そんなことを考えながら、

「おい、どうして俺の仕事量がここまで増えているんだ。おかしいだろう?」

と、疑問を口にした。

すると、大臣は至って冷静な口調で、俺にこんなことを言って来たのだ。

「これまで通りの量ですよ。」

「何を言っているんだ?ボケたか?」

これだけの量にしておいて、これまで通りなどと。

どれだけ目が悪いんだ?

そろそろこいつも切り捨てる時か、と。

そう、思っていれば。

「ただし、今までは、この書類仕事の九割以上を、リリアーネ嬢がさばいておられましたが。」

ガタンッ。

乱暴に立ち上がったからか、椅子が後方に音を立てて倒れた。

しかし、そんなことはどうでもいい。

問題は、あの。

優等生ぶった、嫌みな女が。

これだけの量の書類を、全てさばいていたなどという。

戯言を言った、この大臣だ。

「やはり、ボケたようだな。あの女が、俺でも手こずるような量の仕事ができるわけがない。」

嘲笑いながら、憐れみながら、そう、至極当然のことを口にすれば。

返ってきたのは、完全に、失望したというような、眼差しだった。

「貴方様は、最後まで…最後まで、リリアーネ嬢と婚約した理由を感じ取れなかったのですね。」

「何だと?」

「陛下は、自分本位で、平々凡々のくせに自信過剰の気がある貴方様を心配されて、それを補ってくれる優秀な婚約者を探されたのですよ。」

「…俺が、平々凡々だと?」

わからない。何故、俺が平々凡々な側で、あの女が。リリアーネが、優秀な婚約者なんだ?

「彼女以上に素晴らしい女性を見つけたと。貴方様が陛下に進言したときは、陛下もさぞ驚かれたでしょうな。気が動転し、リリアーネ嬢との婚約破棄を許してしまう程度には。まったく、貴方様の代打以外にも、政務の七割以上を担当されていたリリアーネ嬢よりも王家にとって益のある女性がいるなど、よく言えたものですね?ああ、貴方様は、それすらご存知ではなかったのでしたね。失礼いたしました。」

リリアーネは。

優等生ぶった、馬鹿な人間ではなかったのか?

まさか、本当に優秀な人材だったとか?

噓だ。

噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ

ありえ、ない。

それなら。

彼女に威張り散らしていた俺は。ただの、道化だったというのか?

そんな混乱している頭の中に、無情にも大臣の声が入りこんでくる。

「それでも、こんなことになるとは、思ってもみなかったでしょうな。」

嫌な、予感がする。

冷たい汗が、一筋。背中をつたう。

「アレン様がリリアーネ嬢を自国へ連れ帰った直後に、フィオとの国交断絶されるなど。」

噓、だろう?

「ましてや、隣国が、」

嫌だ。もう、聞きたくない。

「宣戦布告をしてくるなど。」

ひゅっ。

喉の奥から、そんな、嫌な音が聞こえる。

「その様子ですと、書類をさばく速度が間に合わなかったようですね。最重要書類の判が押されていたと記憶していましたが…ルーク様、本当に残念です。それこそ、リリアーネ嬢との婚約を破棄した時から、ね?今、わたくしめが提出した書類は、辞表です。これからは平民となって余生を過ごしていきたいと思いますよ。」

待て、俺たちを見捨てる気か?

「ああ、賢い貴族は、もう既に爵位を捨てて平民となったか、国外へと移住、もとい亡命しておりますから、隣国と戦うにしても、武勲を立ててもてはやされたいだけの将しか残っておりませんからね。早々に降伏したほうが得策ですよ?」

これが、ボケた爺からの最後の忠告です、と。

そんな皮肉を残して、大臣は。元大臣は、退室した。

俺は…

どこで、何を間違った!?



ああ、長くなってしまった…

ちなみに、ざまあはこれだけではないので、ご安心を^m^

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