第二十六章<夜会6>
夜会というからには、避けて通れないステップがある。
ダンスだ。
実を言うと、元婚約者であるルーク様と一緒に踊った回数は、片手の指で事足りる程少ない。
要するに当時の私は、第二王子の婚約者でありながら、夜会や社交界に出る回数は人並以下で、婚約者がいながら壁の花になってしまうという状況に何度か陥っていたわけだ。
自分で言うのもなんだが、基本的に真面目な私は、ルーク様という婚約者がいる以上、あまり他の男性と踊るのはよろしくないと考えていたので、自ら壁の花になっていたようなものだったのかもしれないが。
しかしながら、アメリア嬢のことだけでなく、元来かなりの軟弱男だったルーク様は、二人で同じ会に出席していながら、何度か私をエスコートせずに他のご令嬢とばかり踊っていたり、たまに複数人の美女を両腕に抱えて即席ハーレム作っていきってたり…
うん。救いようのない阿保なことばかりしていた。
婚約していた当時は、思い出す度に怒り五割悲しさ五割くらいの気持ちになって、人知れず落ち込んでいたけれど、現在は純粋に怒り十割だ。
ついでに言うと、二人で踊ることがあっても、世間体が悪いとかいうことを両陛下と王太子に吹き込まれた直後だから、という理由で渋々踊っていた感じだった。
しかも、
「お前なんかと踊ってやるんだから感謝しろよ!」
などという、理解不能な文句まで私にぶつけて。
ルーク様は、無意識に相手の足を踏もうとするわ、ステップがなっていないわ、音感がゼロだわと、ダンスが超が付くほどのド下手だったから、いつも私がリードしてあげていたのですけれどね。
ちなみに、他のご令嬢と踊る際は、足を踏まない、踏まれないことにのみ専念していたようだった。
何故知っているかといえば、壁の花状態で暇だったから、ずっとルーク様のダンスシーンを観察していたからだ。
鉄面皮と評判で、公式の場でもプライベートでも表情を動かすことが極端に少ない私でも、最初にルーク様が他のご令嬢と踊る姿を見たときは吹き出しかけた。
だが、寂しいものは寂しかった。
それで、私はダンスに関してはあまり、というか一つも良い思い出がない。
しかし、そろそろ皆がダンスを踊り始めるころだろう。
この夜会は、私とアレン様のお披露目のようなものだから、どうしたって、ファーストダンスは踊らなければ。
深呼吸して、気分を落ち着けた後、アンナを呼んでメイクを直してもらう。
そして、控室の扉を開けた。
お義父さまと何か話していたアレン様が私に気付き、こちらへ歩いて来る。
そして、真っ先に私の体調を確認した。
「気分は大丈夫か?」
「はい、お気遣いありがとうございます。」
ならいいと、アレン様はぽんぽんと私の頭を撫でた。
その想定外のリアクションに、私は下を向いて、僅かに赤面した。
「じゃあ、そろそろダンスを始めましょうか。」
お義母さまの号令で、各々がパートナーと向かい合う。
もちろん、私もその一人だ。
ほんの少しだけ緊張しながら、音楽を待つ。
「無理するなよ。」
ワルツが流れ出す寸前、温かくて優しい、音にならぬ声が、私の中を通り過ぎて行った。
早く、ルークとアメリアと他数名のざまあを書きたいです…




