第二十四章<夜会4>
アレン様は驚き、結構な勢いで振り向いた。
その表情は、驚愕。その一言に尽きる。
しかし、数日ぶりに目の当たりにするアレン様の怒りに、私はひどく動揺していた。
あの時は広間の外から覗いていただけだったけれど、感じた怒気と凍り付きそうな冷気はかなり怖かった。
それが、今彼は私の隣にいるのである。
必然、自分のために怒ってくれているとはいえ、私が彼に感じている畏怖と驚きは、前回の比ではない。
その後、彼の手を掴んだまま、こんなことを叫んでしまう程度には。
「落ち着いて下さい、アレン様!私は彼女に貶められた分は自分で言い返せていますし、ここまでヤバい発言をしていれば、どの道不敬罪で修道院行きです!ですから、自ら自分の評価を下げるようなことを。自分で自分の首を絞めるようなことをしないで下さい!」
…しまった。
毒舌とは違うけれど、また意味の分からないことを叫んでしまった。
もう、周りから見た私の印象最悪じゃない。また婚約破棄するのかな?
思考が悪い方向にしか転がらず、アレン様に出会ったあの日以来、すっかり脆くなってしまった涙腺から、羞恥で涙がこぼれ落ちそうになる。
おそらく、顔も真っ赤になってしまっているのだろう。
私は、黙って俯く。
でも。
なぜか私は今、上を向いている。
顎にはアレン様の手がかけられていて、目の前にはアレン様の、笑みを浮かべた整った顔がある。
ワープした記憶をどうにか掘り返すと、私が俯いた一拍後、アレン様が私の顎をくいっと持ち上げ、自身の顔を近づけている映像が脳内で再生された。
「○✕△□※♡▽☆彡♧ーーーー!!!???」
声にならない叫びが脳内に響いた。
なんでーーー!!!???
なんでこのタイミングで顎くいーーー!!!???
いつか読んだ恋愛小説(純愛もの)で、けっこうな見せ場だったあのシーン。
まさか、体験することになろうとは夢にも思わなかった。
もう、違った意味で頬が熱い。心臓がマッハで鳴り響いている。
そして心なしか、お馬鹿さん以外の周りの貴族たちから送られてくる視線が生温いような…
落ち着けリリアーネ。
ここは公式の夜会。人目がある場所。というか人目しかない場所。
私がなにか粗相をしたりすれば、それがアレン様のイメージダウンに繋がってしまう。
それは、何が何でも避けなければ。
そんな思考で何とか理性を取り戻した私は、手始めにアレン様の手をはたいた。
アレン様の反応はというと。少し、拗ねたような表情だった。誰かがブッ、と吹き出したようだが、あいにく、勇気を持ってその行動を起こした私の耳には入らなかった。
ごめんなさい!お叱りなら後で受けるので、というか何故あのタイミングで顎くいしたかの理由も聞かせていただきますから、とりあえず今度は啞然とした表情になってるお馬鹿さんを何とかする方が先です!
と思いつつ、私は笑顔の仮面を被り直して彼女に向き合った。
そして、淡々と言葉を紡いでいく。組み合わせ、絡めとっていく。
「コンスタンティーナ嬢。先程お話ししたように、貴女の先の発言は不敬罪に該当するものが含まれます。」
彼女は再び目に涙を溜める。
そんなにすぐ泣くんだったら、喧嘩なんて売らなきゃいいのにね。
内心溜息を吐き、私は畳み掛ける。
「それに…アレン様のお気持ちを代弁するわけではありませんが、」
ここで言葉を切り、ふっと息を吸う。
「迷惑でしかないのに、そのことに気付かない言動って、一番面倒で、疲れるんですよね。」
堪え切れなかったのか、とうとう彼女は声を上げて泣き出した。
だが、そんな彼女に手を差し伸べる者はいない。
実の両親と思しき一組の男女は、明後日の方向を向いていた。
彼女を援護するようなことがないとわかり、少し安心した。
負かす自信はあっても、あんな言動の人間の相手をあと二人もするのは、心身ともにかなり堪える。
そんな時。
「お見事だった。」
突如として広間に響いた声は、聞き覚えのある、この場にいる誰よりも堂々とした男性の声だった。
広間にいる皆が、全く同じように首を垂れる。
輪になっていた人だかりが、一瞬にして二手に分かれた。さながら、卒業式の折、在校生が作る花道のように。
登場が遅いとは思うが、色々とお仕事が溜まっていたのかもしれないので、まあ、目をつぶっておこう。
「うふふ。遅れてごめんなさいね。でも、楽しませてもらっちゃった。」
鈴を転がすような可愛らしい女性の声がそれに続く。
この世界の頂点に君臨するお二方は、並んで堂々と通された道を歩く。
もう、このお二方に任せたほうがよろしいですね。
そう考え、一歩後ろへと下がった。
中央にいるご令嬢の審判が、今、フィオの両陛下によって下される。
二週間ほど更新ができないと思われます…どうか皆様、見捨てないでやって下さい。
エタったわけではないですm(__)m
ただ、単なる作者の都合でございます。。。お許しください(o*。_。)oペコッ




