第二十二章<夜会2>
「皇太子殿下、アレン様及び、婚約者、リリアーネ様のご入場~!」
高らかに鳴り響くラッパの音とともに、衛兵の告げられた言葉は、夜会に参加していたフィオの貴族の面々を一斉に振り向かせるのに、十分なものだった。
そして当然ながら、私たち二人は、次の瞬間にはあっという間に、男女問わず多くの方々から囲まれていた。
ただ、この方たちのように、そばに寄ってきて話しかけてくる人は、基本的に悪意ある方ではない。
これは、ルーク様から婚約破棄されてからの二ヶ月間の体験談だ。
つまりは、社交界や夜会、お茶会に出席しても、友人たちが参加していない席の場合、挨拶回りが終われば常にボッチだったということだ。
余程自分に自信がある者や、馬鹿者ならいざ知らず、どこにでも一定数いる他人の悪口大会大好き令嬢などは、基本的に群れる習性を保有する。
よーするに陰でひそひそやってる、絶妙にムカつくが、メンタルを鍛え、気にしていないようにふるまいながら、聞かれたときにはしっかりと否定しておく術を身に着けることさえできれば、大した害にはならない陰キャ又はモブキャラってことだ。
その方たちはあくまで悪口を「言うこと」が好きなのであって、標的に心底不満を持っているわけではないことが多い。
そのため、小説でよくある、校舎裏呼び出しや、取り巻きを引き連れてのリーダー格令嬢からの忠告という名の文句付けなどは、滅多に行われることがない。
理由は明快。誰も、危ない橋を渡りたくないからだ。
ましてや、両陛下に皇太子まで参加する大規模な夜会で堂々と喧嘩を叩き売りする馬鹿などいない。
そう思っていたのですが。
「あら、ここにいらっしゃったのね、役立たずのリリアーネ嬢。フィオの伯爵令嬢たるわたくし、高潔なる精霊ことコンスタンティーナ・ウィンターが貴女という聞くに足らぬ売女を裁きにわざわざ出向いて差し上げましたのよ。感謝なさい!」
いましたね、お馬鹿さん。
淡いクリーム色の髪に、ピンクのメッシュが入っている、平均的に見て、どちらかと言うと美人の部類に入るご令嬢だった。
にしても、この二つ名は自分でつけたのかな?わざわざ自己紹介に入れてるくらいだし。
そうだとしたら、年齢は知らないけどかなり重度の中二病を発病していらっしゃるようですね。
「初めまして、リリアーネ・ルミナスと申します。」
とりあえず、挨拶はしておこう。
たとえ、相手が中二のナルシストでも。私のイライラゲージがかなり溜まっている状態でも。
「感謝なさいと言ったのよ!?まったく、婚約者に愛想をつかされるような役立たずとはいえ、言われたことすらできないなんて、呆れ返りましたわ。こんな無能女が将来の王妃になれるのでしたら、わたくしの方が適任だと思われません?」
この女、前半は私に焦点のずれたところで当たり散らし、最終的にアレン様に色目を使いやがった。
ついでに言うと、アレン様の視線が零度以下だということにも気づかず、ただ彼が自分を見つめていると思い込み、いけ好かない笑みを浮かべている。
ぷっつん。
私の中で、何かが切れた。
目線でアレン様に同意を求め、彼は頷いてそれに答える。
次の瞬間、私は笑顔の仮面を貼り付け、お馬鹿さんに向き合い、言葉を紡ぎだす。
「お言葉ですが…裁かれるいわれも、感謝するいわれも、少しもございませんよ?」
「は?」
彼女は、理解できないことを言われたかのような反応をした。
そのことで、ますます苛立ちが募っていく。
この一分間で消費できるといいのだけど。
そんなことを考えながらも、アレン様の同意を貰ったという保険もあるので、ルーク様の時の倍の速さ(スピード)で、私は毒舌を加速させていく。
「まず、資料を拝見いたしましたが、貴女はアレン様の婚約者候補にも選ばれていませんでしたよね?元婚約者候補とかならまだわかりますが、何の関係もない状態で私のことを裁くとか、馬鹿げているし、そもそも現在の立場としては、アレン様の婚約者である私の方が上ですし、裁かれるようなことをしたこともありません。よって、貴女の今の言動は根本的に理解不能です。それにいったい、その発言の前提として何を裁こうというのですか?その段階から理解しかねますので、その発言を認めてほしいのならば、それ相応の材料を持ってどうぞ。それに、常識的に考えて、いきなりやって来た初対面の人、おまけに開口一番私のことをけなしてきたお相手に、何が悲しくて感謝などをせねばならないのでしょう。意図が少しも読み取れませんことよ?あとは、そうですね。婚約者に愛想をつかされた役立たずとのことでしたが、何度か縁談を破談にしてしまっているのは、アレン様も同じですよね?貴女はアレン様をも「役立たず」だと言われるのでしょうか?その割には、アレン様のことは慕われているご様子。この矛盾、説明して下さいますか?」
立て板に濁流の勢いで言い切った私に、お馬鹿さんは、呆然として立ちすくんでいた。
勿論、久々の長文毒舌を吐き出したことにより、私の気分は大分上がっていた。
いえーい!久々の毒舌万歳!
作者のストレスも大分消費されました!
もうちょっと毒舌を出せるように頑張ります!




