第二十章<これからのこと>
「…本当に、溜め込まずに、外に出してしまっていいんですか?それで、今のアレン様のように、誰かを傷つけたら。私のせいで、陛下や、王妃様。アレン様の評判が悪くなりでもしたら、私…」
溜め込むのは、辛かった。否。辛いと感じたことはなかったけど、本当は、ずっと。胸の内に閉じ込めた、棘が痛くて。
でも、その痛みを知っているからこそ、他の人に向けるのが怖かった。アンナや父様。母様に兄様など、私の毒舌を知っている人はいた。
それでも、全部じゃなかった。
王妃様が、肩をすくめた。どんな返答が来るのかが怖くて、ギュッと目を閉じて待った。
やっぱり、やめてほしいと言われることが。溜め込まなくていいと言われた後のほうが、よっぽど辛いから。
でも、王妃様からの返答は、完全に想定外のものだった。
「ねえ、また忘れてる。」
「えっ?何をですか?」
本気で分からずにそう問い返せば、
「王妃様はやめてって言ったじゃない。レイモンドか、お義母様って言って頂戴?」
「え?普通そこツッコミます?」
「いいから呼んで?」
たかが呼び方のことなのに、けっこうな圧を感じる。魔法でも使っているのだろうか。
「お、お義母様。」
!?
自分で言っておきながら、動揺した。
レイモンド様って呼ぶつもりだったのに!?なんでよ!?
私が物凄く後悔している目の前で、王妃様―お義母様は、国を傾けかねないほどに麗しい笑顔の花を咲かせていた。
「はい、よくできました。」
彼女は、甘露の如く甘い声で、そう告げる。
良くないけど、とりあえず、良かった。
「って、ちょっと待ってください!?呼び方一つで上手いことはぐらかしてたけど、誰も私の質問に答えて下さってないですよね!?」
今まで気付かなかったとは、私は馬鹿か。それとも、誰かが本当に魔法を使っているのだろうか。
「あらら。ちょっと思考誘導の魔法をかけてみたんだけど、最後まではだまされてくれなかったわねぇ。」
まあ、未来の王妃になる器だって証明できたけど。お義母様は、笑顔のまま。そう、付け足した。
「え!?それはちょっと酷いです!?大事なことですよね、私の質問!?」
ややジトっとした目でお義母様に視線を向けたが、彼女は扇を口元にあて、クスクスと優雅に笑っている。
もう一度質問をし直そうとしたところで、見かねたアレン様が、お義母様の代わりに答えてくれた。
「大丈夫だ。君の言葉は、良くも悪くも的を射ている。それを受け入れ、改善しようとすることは自身のためになる。それに、」
ここで、アレン様はやや言いにくそうに視線をそらし、
「この国の貴族たちへのいい牽制になる。」
目から鱗とは、このことだろう。
絶句していると、王様―お義父様が補足で説明を入れた。
「まあ、なんだ。つまり、受け入れられない貴族は切り捨てることができる良い機会なんだ。」
その言葉で、全てのピースがピタリとはまる。
この国に、そんなメリットがあるなら。
いくらでも、協力する。
「わかりました。その役目、是非やらせてください。」
三人は、そろって頷く。
さあ。絶対に、こなしてみせる。
皇太子妃という、その役目を。
次回から、皇太子妃編(仮)がスタートです!




