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第十九章<浄化>

 「お、王妃様…私…」

抱きしめてもらったことのお礼と謝罪をしかけた私を、王妃様は軽く手で止める。そして、予想だにしなかったことを言ってきた。

「え~?その呼び方とても他人行儀じゃない。レイモンドって呼んで頂戴?あ、でもお義母かあ様とかでもいいわね」

「えっ?そんな恐れ多い…今までの呼び方じゃダメですか?しかもお義母様って…まだ婚約もしてないのに…」

「ああ。そのことね。ちょっと待ってて。すぐ婚約届持ってこさせるから。」

そしてあれよあれよと言う間に婚約届をメイドさんが持ってきて、気が付けば両陛下の前で、アレン様と二人して必要事項を書き込み、提出していた。

「はい。これで手続き終了。よかったわね~、アレン。今度ばかりはちゃんと婚約届を提出できて。今までの女の子には、貴方が婚約届を渡した瞬間に逃げ出しちゃった子もいたものね~」

「え、アレン様その子に何したんですか?」

しまった。うっかり心の声が。

「…別に何もしていない」

「じゃあなんで婚約届見せられた時点で逃亡したんですかその子は!」

「…それが、わからない。」

「…は?」

クスクスと、私たちのやり取りを微笑ましそうに見守るお義母様。

「あのね。リリアーネちゃん。その時のアレンってばひどかったのよ。仕事の忙しさにかまけて、一緒に暮らし始めた女の子を三日も放置した挙句に、夜中に突然やって来て、いきなり婚約届を渡してね。「やっと時間が取れた。さっさとサインしろ。」なんて言ったのよぉ。しかもクマができた上に血走った目でよ。そりゃ逃げるわよねぇ。」

「え?それはかなりヤバくないですか?アレン様が皇太子じゃなかったら警備兵呼ばれてもおかしくない出来事ですよねそれ?」

「…待て。母上が言ったことでは少々語弊があります。」

「あら?どこか間違えたかしら?」

「まず、その時私は仕事が死ぬほど忙しく、同棲は待ってほしいと言っていたにもかかわらず、向こうが強引に同棲したいと言い出したことで、仕方なくそうしたんです。それに、夜中に婚約届を持っていったのは、その段階でやっと仕事のきりがついただけで、他意は何もなかったんですよ。」

「いや、にしても婚約までのスピード早すぎません?私が言えることじゃないですけど。お試しで同棲していたのに、ろくに会話もしないままいきなり婚約届って…お試しの意味がないじゃないですか。」

「…早く同棲をしたがっていたようだったから、婚約も早くしたがっていたのかと…」

「いや、そうとは限らないのではないかと。…それに、目を血走らせた男性が夜中に自分の部屋に来るって、恐怖以外の何物でもないと思います。」

私は、そこまで言って初めて、アレン様が絶句していることに気づいた。しまった。またやった。

「…喜ばしいことなのだろうが、素直に喜べないようだな」

何を、言っているの?

「気持ちを溜め込まないでいるのはいいんだが…」

「あっ!」

私は、ここに来てから、毒舌という名の心の中に溜め込んでいた思いを、するすると浄化できていることに、やっと気づいた。


更新がまた遅れました。申し訳ございません。(´;ω;`)

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